現在白血病の治療として CAR-T は定着しており、しかもベンチャーというより大手の製薬会社により提供されている。おそらく、ガン免疫治療として、最初から最後までコントロールできる可能性が、この期待の大きな理由だろう。従って、現行の治療法を改良するため、様々な方法が開発され、おそらく次から次へと治験へ進んでいると思う。
そんな中で今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、CAR-T の改良という点では同じだが、改良法をT細胞白血病の変異から学ぼうとする点でユニークだ。タイトルは「Naturally occurring T cell mutations enhance engineered T cell therapies(自然発生したT細胞変異により遺伝子操作によるT細胞治療効果を高める)」で、2月7日 Nature にオンライン掲載された。
ともかく発想が面白い。T細胞白血病は変異を繰り返しながらホスト環境にフィットする。一方、正常T細胞は増殖分化の各段階それぞれで条件が変化することから、正常細胞にガン抗原に対するキメラ受容体を導入しても、フィットした細胞だけを用いることはできない。そこで、フィットしたガン細胞の遺伝子変異の中から CAR-T の能力を高める変異を探し出そうと発想している。
T細胞系白血病から集めた遺伝子変異71個の中から、最終的にT細胞の3種類のシグナル( NFkB、AP-1、MALT1 )を変化させる CARD11-PIK3R3 変異を特定し、試験管内、およびガンを移植したマウスへの細胞移入実験でその効果を確かめている。
詳細を全て省いて結果だけをまとめると、3つのシグナルを変化させることで、IL−2 や IL-5 などのサイトカインを発現する能力とともに、抗原刺激時により高い増殖能を示すようになる。
そして、担ガンマウスに CAED11-PIK3R3 を導入した CAR-T を移入すると、通常の CAR-T と比べ、ほとんど再発がない強い抑制効果を示す。
また、CAR-T に限らず、レトロウイルスで CAED11-PIK3R3 を正常CD8T細胞に導入すると、生体内で他の細胞より多く増殖し、さらに発ガンを抑える免疫機構が発達することを示している。
これほど効果があっても、CAR-T がこの遺伝子で腫瘍化してしまったのでは本末転倒になる。この危険性さまざまな方法で調べ、抗原刺激や IL-2 刺激がないと増殖は止まること、さらに移植後長期間フォローしても問題は起こらないことを示し、ガン化のリスクは高くないと結論している。
発想はユニークなので、これほどの効果があると、たとえば必要な時にこの遺伝子が発現できないようにして使ってみたくなるのはうなづけるが、臨床応用は慎重にならざるを得ないと思う。