最近論文を読んでいて感じるのは、中国からの論文のかなりの割合が意外性を狙っている点だ。普通誰の論文か気にせず読んでいくのだが、読んでいるうちに「中国からかな?」と感じてアフィリエーションを見て納得するケースが多い
今日紹介する2編の論文は、ともに細菌叢からスタートして、病気の治療に役に立つ菌を特定し、最後にそのメカニズムを明らかにする研究だが、思いもかけないメカニズムに落ち着いている。
最初は浙江大学からの論文で、マウスの系でチェックポイント治療を助ける細菌叢を調べたら Johnsonii乳酸菌に行き当たり、さらにこの菌が他の菌と協力して合成するインドールプロピオン酸が免疫を助けるという話で、3月14日 Cell にオンライン掲載されている。タイトルは「Microbial metabolite enhances immunotherapy efficacy by modulating T cell stemness in pan-cancer(細菌由来の代謝物がT幹細胞を変化させてほとんどのガンに対する免疫治療を高める)」だ。
この研究は人間ではなく、マウスに移植したガンを PD-1 抗体で治療したとき反応した群と、しなかった群に分けて、反応した群だけに認められる細菌を探索し、少なくともヨーロッパではプロバイオに用いられている Johnsonii 乳酸菌 ( Lj ) に行き着き、実際正常マウスに Lj を投与すると PD-1 知要項かを高められることを示している。
Lj が出てきたのも意外だが、この作用機序を調べる中で、Lj によるトリプトファン代謝の結果出てくるインドールプロピオン酸(IPA)が、クロマチン変化を通じて自己再生能を持つ CD8T細胞を活性化し、キラー細胞を供給し続けることを示している。ぱっと見には不思議に感じないのだが、IPAを合成できる細菌はこれまでClostridium sporogenesに限るとされていたので驚く。
これについては、Ljが合成したインドール乳酸(ILA)をClostridium sporogenesに引き渡していると結論し、Lj によって ILA が提供されることで Clostridium sprogenes の増殖を促すというシナリオを提案している。
いずれにせよ IPA というゴールに集約している感じだが、この筋が正しければ IPA は現在アルツハイマー病など様々な病気で効果が調べられているので、プロバイオより、IPA 服用が正解という話になる。
次は中山大学からの論文で、最近のメタボライトにより高尿酸血症を直す話で、意外な目的だが、内容は面白かった。タイトルは「Alistipes indistinctus-derived hippuric acid promotes intestinal urate excretion to alleviate hyperuricemia(Alistipes indistinctus由来馬尿酸は腸管での尿酸分泌を促し、高尿酸血症を抑える)」で、3月14日 Cell Host & Microbiome に掲載された。
この研究も、まず高尿酸血症の患者さんで特異的に上昇している細菌としてAlistipes indistictus(Ai)を特定し、これを無菌マウスに投与して高尿酸血症を誘導すると、Aiを投与された群は血中尿酸値が低下することを発見する。
次に Ai 感染により起こる便中の代謝物の変化を調べ、馬尿酸に行き着く。驚くことに、馬尿酸を投与するだけで、高尿酸症を抑えることが出来る。すなわち、馬尿酸を飲むことで血中尿酸が下がるという意外な結果だ。
代謝経路をたどると、Aj は馬尿酸を直接合成するわけではなく、Benzoate と Glycine をフェニルアラニンとケトグルタル酸から合成し、これが肝臓へ移って馬尿酸になる。
そして馬尿酸濃度が高まると小腸上皮の 0PPARγ 転写因子が活性化され、尿酸をくみ出すシステムの小腸上皮の内腔面での発現が高まり、尿酸をくみ出す。マウスの話だが、実際 Aj 投与や馬尿酸投与で血中尿酸は大きく下がっているので、馬尿酸の毒性がないとすると、高尿酸血症の新しい治療になる可能性はある。
Aj の場合、benzoate とグリシンが供給され馬尿酸が作られるが、同じ量の馬尿酸なら投与可能ではないだろうか。
いずれにせよ、このような意外な筋を示す論文は中国からの確率が高い。
Ljによるトリプトファン代謝の結果出てくるインドールプロピオン酸(IPA)が、クロマチン変化を通じて自己再生能を持つCD8T細胞を活性化し、キラー細胞を供給し続けることを示している。
Imp:
IPAがクロマチン変化を通じて自己再生能を持つCD8T細胞を活性化する機序があったとは!