免疫性の炎症疾患の治療に今も欠かせないのは、一般にはステロイドホルモンとして知られているグルココルチコイドホルモンだ。私も目薬や皮膚の炎症によく使用するが、内服すると一般の人に広く知られる様々な副作用が生じる。現在では、作用経路を減少させて、副作用を抑えたグルココルチコイド受容体(GR)作動薬が開発され、治験が進んでいるが、臨床利用にまでは至っていない。
今日紹介する米国の創薬企業 AbbVie 研究所からの論文は、GR作動薬を免疫性の炎症に使われる抗TNF抗体に結合させ、TNFを細胞膜に発現した細胞だけにGR作動薬を作用させ副作用を抑えられないかを調べた研究で、3月20日号 Science Translational Medicine にオンライン掲載されている。タイトルは「An anti–TNF–glucocorticoid receptor modulator antibody-drug conjugate is efficacious against immune-mediated inflammatory diseases(抗TNF 抗体にグルココルチコイド受容体作動薬を結合させた抗体結合薬は免疫性炎症疾患に効果を示す)」だ。
開発されたのは抗TNF抗体に2個のアラニンをスペーサーにしてGR作動薬を結合させた薬剤で、現在ガン治療によく使われるADCと呼ばれるグループに入る。抗TNF抗体はリュウマチなどの免疫性炎症で広く使われており、こうして開発された ABBV-3373 はまさに抗体とGR作動薬を合体させた効果を期待している。
まずTNFを発現する細胞に ABBV-3373 を作用させると、TNFとともに細胞内に取り込まれ、そのあと2個のアラニン部位が切断され、細胞内に放出されることを確認している。そして、試験管内でLPS刺激による末梢血の IL-6 産生を、TNF抗体のみと比べると、強く抑制できることを示している。
後はマウスの接触性皮膚炎、及びリュウマチ関節炎モデルで ABBV-3373(マウス型に変えている)の効果を調べている。
接触性皮膚炎でTNF抗体のみと比較すると濃度比で30倍ぐらい活性が高い。重要なのは、GR作動薬に見られる副腎皮質抑制効果がかなり抑えられている点で、グルココルチコイド薬から離脱するためのテーパリングというプロセスを必要としない。
マウス関節リウマチモデルでもテストしている。このモデルでは、TNF抗体は効果が低いが、GR作動薬は強い関節炎抑制効果を持つ。ABBV-3373 も同様の効果を示すが、関節炎だけで見ると両者の効果に差はない。ただ、GR作動薬ではマウス体重の低下を抑えることが出来ないが、ABBV-3373 では体重減少は全く認められない。
さらにリウマチの炎症がピークに達してから投与する実験を行い、既に確立した炎症でも抑えられることを示している。
最後に、ボランティアに投与して副腎抑制効果がほとんど見られないこと、また ABBV-3373 投与されたボランティアの末梢血ではTNFを発現した単球の数が低下していることを示している。
以上が結果で、ADCをGR作動薬と結合させて免疫性炎症抑制をさらに高めるというアイデアは面白い。今後、現在開発中のGR作動薬との比較になると思うが、副作用だけでなく、副腎機能抑制を抑えられるのはアドバンテージになる。
驚いたことに、リウマチ性関節炎に対する ABBV-3373 の第二相試験が昨年先行して発表されている。治験論文が先というのは創薬ベンチャーらしいが、効果で見るとTNF抗体のみと比べると、寛解率は高い。ただ、ベースにグルココルチコイドホルモンが投与されているので、今後はグルココルチコイドホルモンを使わない条件での治験が重要になる。
実際、小児のネフローゼなど、グルココルチコイドホルモンを使う副作用が問題になる病気は多い。その意味で、グルココルチコイドの副作用を抑える目的のADCは期待したい。
抗TNF抗体に2個のアラニンをスペーサーにしてGR作動薬を結合させた薬剤で、現在ガン治療によく使われるADCと呼ばれるグループに入る。
Imp:
北里柴三郎先生が開発した抗体医療。
抗体工学の進化に伴い、
抗体=in vivo cell modulator
として、新たな装いを伴い進化し続けています。