プロスタグランジンE2(PGE2)は炎症メディエーターとして一般の方にも広く知られているが、ガン免疫を抑制する作用が最近注目されるようになった。例えば2022年、医学部で同級だった成宮君の研究室は PGE2 阻害剤の投与によりガン組織で炎症が抑えられるだけでなく、Treg の上昇を抑えることで、ガン免疫が高められることを明らかにしている。
今日紹介するミュンヘン工科大学からの論文は、成宮研と同じ方向の研究だが、阻害剤の代わりにT細胞だけで PGE2/PGE4 のシグナルを受ける受容体をノックアウトして、ガン免疫が高まるメカニズムを解析した研究で、4月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「PGE 2 limits effector expansion of tumor infiltrating stem-like CD8 + T cells(PGE2 はガンに浸潤している幹細胞様の CD8T 細胞を増殖させる)」だ。
すでに述べたように研究目的は、PGE2 がガン免疫を抑制するメカニズムを探ることだ。キラーであれ Treg であれ、ガン免疫に関与するのは T細胞なので、すべての T細胞で PGE2 に反応する受容体、PGER2 と PGER4 をノックアウトしたマウスを作成して、メラノーマに対する反応を調べている。
結果は見事で、ガンの増殖をほとんど抑えることができる。しかも、この反応は完全に CD8T 細胞だけで起こっており、CD4TR 細胞を抗体で抑制してもガン免疫は維持される。
この効果のメカニズムを詳しく探っていくと、リンパ節からの細胞のリクルートをブロックしても効果が見られることから、ガン組織の中で起こっている現象と結論できる。Single cell RNA sequencing で T細胞抗原受容体遺伝子と遺伝子発現をパラレルに調べる実験から、CD8T 細胞の中でも TCF1 陽性の自己再生し分化細胞を供給する幹細胞機能を持った T細胞が、ノックアウトマウスでのみ腫瘍組織内で増殖していることが明らかになった。
さらに、腫瘍組織で増殖している CD8T 細胞の遺伝子発現プロファイルから、この増殖を支える因子を IL-2 受容体刺激と特定し、CD8T 細胞を IL-2 で刺激するとき、PGE2 を加えると、IL-2 反応が押さえられること、またこの抑制が PGE2 による IL2γ 受容体の発現抑制によることを明らかにしている。
以上のことをまとめると、PGE2 は TCF1 陽性 CD8T 細胞に作用して IL2γ 受容体の発現を抑えることで、腫瘍内のキラー細胞の増殖分化を押さえているという結論になる。
そこで、最後に卵白アルブミンを導入した腫瘍と、卵白アルブミンペプチドに対する CD8T 細胞をセットにして、ガン免疫反応を単純化した実験系で、担ガンマウスに PGE2 に反応できない CD8T 細胞、あるいは反応でき正常T細胞を移植し、腫瘍内での CD8T 細胞の増殖を調べると PGE2 に反応できないCD8T 細胞だけが腫瘍内で増殖し、腫瘍増殖を抑制することを明らかにしている。
PGE2 は TCF1 陽性 CD8T 細胞に作用して IL2γ 受容体の発現を抑えることで、腫瘍内のキラー細胞の増殖分化を押さえているという結論になる。
imp.
阻害剤のヒト治験に進んでほしいです。