京大の再生医学研究所、そしてミレニアムプロジェクトの神戸の発生再生科学総合研究センターの設立と、立て続けに大きな研究所構想の実現に奔走した思い出は今も生き生きとよみがえるエキサイティングな経験だった。これら研究所の設立時、研究所が目指すべき最も大きなゴールとして考えたのが自己ES細胞作成による再生医療だったが、これは設立時には予想しなかった山中さんのiPS細胞により実現している。そして、もう一つ再生医学臨床応用の象徴が血管内皮移植による虚血障害の治療だった。当時まだ米国在住の浅原さんを始め、多くの研究者がしのぎを削っており、ミレニアムプロジェクトでもこの方向の研究を重視した。あれから20年以上が経ち、血管移植療法はどうなっているのか?実は全くフォローしていなかったが、私が今目を通しているジャーナルにはあまり現れてこないし、それほど華々しい話も聞いていない。
今日紹介するハーバード大学からの論文を読んで、血管内皮移植がうまく進んでいない理由を知るとともに、この問題の解決にミトコンドリア移植による内皮ミトファジー活性化が切り札になる可能性を理解した。タイトルは「Mitochondrial transfer mediates endothelial cell engraftment through mitophagy(ミトコンドリア移植はミトファジーを通して内皮細胞を支持する)」だ。
まず前書きを読んで、血管内皮移植では内皮細胞の生着が低く、臨床結果が安定しないこと、間質幹細胞と同時移植はこれを改善できる可能性があるが、複雑な移植で同じ条件での臨床応用が難しいことからまだ普及していないことを知った。
この研究でも、ヒト血管内皮と間質幹細胞移植で、マウス体内での内皮の定着率が上昇することを確認した上で、間質幹細胞から血管内皮へのミトコンドリア移行が効果の原因ではないかと、間質幹細胞のミトコンドリアをラベルして実験を行い、ミトコンドリアが細胞間ブリッジを通って移行していること、このブリッジ形成を TNF で活性化するとより多くのミトコンドリアが移入されることを明らかにしている。
次に、間質幹細胞からミトコンドリアを抽出し、これを内皮細胞と培養して EC の生着率を調べると、ミトコンドリアを移植した群で生着率が上昇し、虚血モデルで血管新生を高めることができる。
しかしよく調べると、移植されたミトコンドリアの数はたかだか細胞全体の10%にとどまり、しかも一週間以内に消失するのに、ミトコンドリアとして機能しているのかが疑問だ。事実、これまでもミトコンドリア移行が血管内皮を活性化するという話はあったが、外部から移植したミトコンドリアが機能を担えているのか疑問が投げかけられていた。
この研究ではミトコンドリア機能維持に必須のミトコンドリアDNAを除去したミトコンドリアを調整し、これを移植するという離れ業の実験を行い、ミトコンドリア移植の効果にはミトコンドリアDNAは必要なく、当然ミトコンドリアの正常機能は必要ないという驚くべき結果を示す。
そして、移植した機能欠損ミトコンドリアが、ミトコンドリア特異的なオートファジー、すなわちミトファジーを活性化することで血管内皮の増殖や移動機能を高めていることを明らかにしている。
生化学的なメカニズムはすっ飛ばして紹介したが、ミトファジーが活性化していることを確認し、またミトファジーを抑制すると生着できないことを示している。
以上が結果で、本当なら血管内皮移植は大きく進展すると思う。また、ミトコンドリアの死骸を使ってミトファジーが活性化できるなら、他の細胞にも応用できるはずで、再生医学の大きなブレークスルーになる様な気がする。臨床から基礎へ、そして臨床へつなげる素晴らしい研究だと思う。
そして、移植した機能欠損ミトコンドリアが、ミトコンドリア特異的なオートファジー、すなわちミトファジーを活性化することで血管内皮の増殖や移動機能を高めていることを明らかにしている。
imp
血管内皮再生医療のブレークスルーとなるか?!