最近 iPS 細胞由来ドーパミン神経を用いたパーキンソン病治療に関する報道をほとんど聞かなくなったし、論文としても目にする機会がほとんどない。Clinical Trial Government に登録されている治験を検索しても、なんとなく低調な気がする。ES 細胞や iPS 細胞による治療が最も待たれるのがパーキンソン病かと思って見てきたが、大きな壁に当たっているのではと心配している。
おそらく最も重要だと思われるのが、移植した神経細胞が生き残って機能するかだが、これまで経験的に問題が改善したという話はあったが、今日紹介する韓国・大邱慶北科学技術院と米国スローンケッタリングガンセンターからの論文は、実験的に移植ドーパミン神経細胞が失われる原因を特定し、それを解決する方法を示した研究で、6月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「TNF-NF-kB-p53 axis restricts in vivo survival of hPSC-derived dopamine neurons(TNF-KF-kB-p53 経路がヒト多能性肝細胞由来ドーパミン神経の生体内での生存を制限する)」だ。
この研究ではまず CRISPR/Cas9 スクリーニングを用いて、移植した iPS 細胞由来ドーパミン神経の維持を妨げている遺伝子を探索し、移植後25日目で生き残っている細胞では p53 分子がノックアウトされていることを明らかにする。この結果に基づいて、p53 をノックアウトしたヒト iPS 細胞由来ドーパミン神経をマウスに移植すると、ばらつきはあるがノックアウトにより生存可能性が促進されることを確認している。
次に移植後の p53 発現を調べると、移植後4時間ぐらいから誘導され、72時間をピークに発現が見られる、すなわち移植というストレスに反応していることがわかる。そこで、p53 を誘導する分子機構を探索し、最終的に TNFα とその下流の NFkB が p53 を誘導していることを突き止める。
ヒト由来、すなわち移植ドーパミン神経が反応性に分泌する TNFα が自らを刺激して NFkB を誘導し、これが p53 誘導に関わることが明らかになった。
そしてこの研究のハイライトになるが、細胞移植とともに TNFα に対する抗体を脳内に投与すると、やはりばらつきはあるが、移植後の生存を高めることができ、さらに6ヶ月後の機能も確認することができる。
最後に、ヒト・マウスではなく、マウス・マウスの組み合わせで同じ実験を行い、このストレスによる TNFα 活性化がヒト細胞をマウスに移植したからではなく、マウスドーパミン神経でも同じ結果が得られることを示している。
結果は以上で、前臨床研究の段階だが、どうして今までこのような研究が行われなかったのかと思うぐらい、重要な研究だと思う。この研究では p53 だけに焦点を当てているが、他にも細胞死を助ける分子も見つかっている。将来は p53 以外の経路も研究されると思うが、TNFα 経路は明日からでも実行可能な点が大きい。もし私が感じているパーキンソン病細胞治療の壁が移植細胞の維持なら、積極的に取り入れて何の問題もない方法だと思う。私の NPO にもパーキンソン病のメンバーがいるが、細胞移植については、10年ほど前に興奮した後何の情報も聞こえてこないため、ほとんど諦めの状態だ。この研究から希望が生まれることを期待する。
細胞移植とともにTNFαに対する抗体を脳内に投与すると、やはりばらつきはあるが、移植後の生存を高めることができ、さらに6ヶ月後の機能も確認することができる。
imp.
ips細胞再生医療の先陣は、GvHか血小板でしょうか!
すでに紹介したように、ほぼFDAが認可しそうな、iPS由来間質ストローマ細胞株製品があります。