我が国は地理的にも災害列島といえるが、この災害を「絆」を合い言葉に皆で寄り添うことで克服してきた。しかし、災害は生きるための資源を極端に減少させるので、少なくなった資源を奪い合う競争が起こる可能性がある。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、プエルトリコの小さな離島に住むサルがハリケーンのあと寄り添って暮らすようになったことを10年にわたる観察で示した研究で、6月21日号 Science に掲載された。タイトルは「Ecological disturbance alters the adaptive benefits of social ties(生態系の混乱は社会的絆の適応的価値を変化させる)」だ。
このグループは2013年から Santiago島とよばれる小島で暮らすサルの生態調査を行っていた。そしてその途中2018年、この小島をハリケーン・マリアが襲った。これによりプエルトリコでは人的・経済的な被害が発生するが、Santiago島でも63%の植物が失われることで、直射日光を避ける日陰が極端に減少することになる。その結果、Santiago島は日40度を超す灼熱の島に変わってしまい、熱調節機能が低いサルにとって、日中直射日光を避ける日陰で暮らす以外生き残れないという状況が生まれる。実際ハリケーン前後で温度を測ると、直射日光下で29度が39度と10度も上昇している。一方日陰では、27度が31度と、上昇はしているものの押さえられているのがわかる。この研究ではこの機会を捉えて、サルが日陰を求めてどのような行動変化を示すのかを、ハリケーン前後の行動変化、特に日陰を求めて争いが増えたのか、逆に寄り添うことで日陰を分かち合う社会的寛容性が芽生えたのかについて調べている。
さて結果だが、ハリケーン後社会的なネットワークがより強化され、ハリケーン前より他の個体と一緒に寄り添って過ごす頻度が増えた。これと平行して、個体間の争いが大きく減少し、これがハリケーン後現在まで続いている。
さらに、灼熱の島へと変化したにもかかわらず、サルの死亡率は低下していることも明らかになった。すなわち、争いを避け、絆を深めることが灼熱の島で生存する条件だったことがわかった。
あとは、この絆の深まりは、毛繕いの増加を示すわけではないので、新しい絆行動として発生した行動変化で、日中少ない木陰で寄り添って過ごすという行動から、もっぱら木陰を共有する新しい適応行動が発生したことがわかる。
あとは、行動変化と様々な要因と生存確率との相関を計算し、最終的に影を分け合うためより絆を深めるという行動が、生存可能性と最も相関することを示している。
以上が結果で、こうして深まった絆を道徳と呼ぶことはできないとおもうが、それでも我々人間の道徳の起源に関わることは間違いなく、今度は行動の背景になった脳機能についても研究が進むことを期待する。
この論文を読みながら、今年3月、Bonobo and Atheist (邦題:道徳の起源)の著者 Frans de Waal さんが亡くなったことを思い出した。個人的には存じ上げないが、論文や著作はいつも感心する一人で、この論文のように彼の遺志を継ぐ研究が続いているのには励まされる。
灼熱の島へと変化したにもかかわらず、サルの死亡率は低下している。
すなわち、争いを避け、絆を深めることが灼熱の島で生存する条件だった!
Imp:
興味深い研究です。
今夏も猛暑が予想されています。
『争いを避け、絆を深める』が解答のようです。