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9月15日 進む遺伝子治療用ナノ粒子開発(9月10日 Cell オンライン掲載論文)

2024年9月15日
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Lipid nanoparticle (LNP) は Covid-19mRNA ワクチンデリバリーカプセルとして一躍有名になった。リポタンパクを感知する TLR4 を適当に刺激して、mRNA とともに自然免疫を誘導できるアジュバント効果を発揮し、強い免疫を誘導するのはまさにワクチン用にできていると思ってもいいベストマッチだった。

ところが遺伝子治療などの目的で使うためには、自然免疫誘導効果は大きな壁になる。このため様々な処方で自然免疫誘導活性を抑え、遺伝子導入効率を高める方法の開発が今も続けられている。

今日紹介するカナダアルベルタ大学と Entos Pharmaceutical 社からの論文は、 LPN にオルソレオウイルスの細胞侵入機構を併せて、これまでの LPN にはない性質を付与したデリバリーシステムについての研究で、9月10日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Safe and effective in vivo delivery of DNA and RNA using proteolipid vehicles( DNA と RNA を安全に効率よくデリバーできるタンパク・脂肪ビークル)」だ。

オルソレオウイルス粒子が細胞内に侵入する際に利用する FAST タンパク質に注目し、これを LPN に実装して細胞侵入を高めることができないかを調べている。

まず2種類の FASTタンパク質を単独、あるいは様々な部位を組み合わせたキメラタンパク質の細胞融合活性を調べ、至適な FASTタンパク質を完成させている。次に、このタンパク質はそのままにして、様々な脂質との組み合わせや、量比をスクリーニングし、最終的に導入効率の高い60nmという比較的大きな粒子を選んでいる。リポフェクタミンやよく使われる LNP と比べると、細胞毒性はほとんどなく、遺伝子導入効率も高い。

オルソレオウイルスの特徴は、細胞側の取り込み機構エンドサイトーシスを介さず、細胞質へ遺伝子を投入できる点で、遺伝子の変性が防げるのと、何よりもエンドゾーム内に発現している様々な TLR自然免疫刺激受容体刺激を避けることができる。この性質を FAST を組み込んだ LPN でも再現できるか調べており、まずエンドゾームに取り込まれる通常の LNP と異なり、6割が細胞質に直接遺伝子を注入できることを示している。

あとは使い勝手で、

  1. 静脈注射したとき、多くの臓器に分布して遺伝子発現を起こす能力が FAST は高い。一方、一般的な LNP はどうしても肺と肝臓にトラップされる傾向がある。
  2. 筋肉注射を行ったとき、比較したファイザーやモデルの LPN は肝臓や脾臓にも漏れ出るが、FAST はほとんど筋肉にとどまる。
  3. 期待通り、自然免疫誘導性はもちろん0ではないが強く抑えることができている。
  4. FAST は異物だが、強い免疫反応は起こっていない(ただ、繰り返し投与などの実験は行っていない)
  5. グリーンモンキーに静脈注射したとき、まず期待通り多くの臓器で遺伝子をデリバーできる。一方炎症性サイトカインは一過性に上昇するが、すぐに元に戻る。また FAST に対する抗体誘導も1匹で観察された。
  6. 最後に、全身にフォリスタチン遺伝子を導入して筋肉増強効果があることを確認している。

オルソレオウイルスを使うというのは面白いし、遺伝子発現ではトップとはいえないが、使い勝手ではすぐれた LNP ができたと思うが、Cell に掲載されているのには少し驚いた。元々カナダは筋肉研究が強く、この研究でも筋肉へのデリバリー実験まで行っていることを考えると、研究のゴールは筋ジストロフィーなどの治療を見据えているような気がする。とすると、結構いいデリバリーシステムが完成したといえる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    静脈注射したとき、多くの臓器に分布して遺伝子発現を起こす能力が FAST は高い。
    筋肉注射を行ったとき、FAST はほとんど筋肉にとどまる。
    研究のゴールは筋ジストロフィーなどの治療を見据えているような気がする。
    Imp:
    ジストロフィン遺伝子全長を搭載可能なAAVベクターも最近開発されたようです。
    『Full-length dystrophin gene therapy for Duchenne muscular dystrophy』
    Molecula Therapy August 12, 2024

    核酸を薬に使う時代が到来する予感がします。

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