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9月19日 TGFβ が肺ガンの転移を誘導するメカニズム(9月6日 Cell オンライン掲載論文)

2024年9月19日
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TGFβ はガン転移を誘導するシグナルとして広く知られている。このメカニズムについて我々のレベルでは、TGFβシグナルは転移につながる上皮間葉転換(EMT)やマトリックスの繊維化を促進し、ガンの転移を促進するで終わっているが、もちろん専門家は膨大なエネルギーを使ってさらに分子間相互作用を追求する。

今日紹介するスローンケッタリング癌研究所 J.Massague 研究室が9月6日 Cell にオンライン発表した論文は、プロの研究を学べる格好の論文で、TGFβ が Ras をドライバーとする肺ガンの転移を誘導する詳細なメカニズムを理解することができた。タイトルは「TGF-β and RAS jointly unmask primed enhancers to drive metastasis(TGFβ と RAS は協力してあらかじめ決められたエンハンサーの抑制を外して転移を促進する)」だ。

J.Massague は TGFβシグナル研究のトップを長く走ってきた大御所で、我々が単純に RAS = ガンドライバー、TGFβ = 転移 と分けて考えてしまっているのを、なぜ RAS をドライバーとするガンが TGFβ で転移するのかという統合的問題として設定し、この問題から始めている。

膨大な仕事で、SMAD の機能から構造まで熟知していないと思いつかない実験が行われており、まず紹介しきれないので、明らかになった結論について一つ一つ解説する。

まず、RASドライバーの TGFβシグナルに関わる役割だが、RREB1 と呼ばれる転写因子が RASシグナルにより活性化されることで初めて TGFβ 下流の転写が始まる遺伝子群が存在し、これらが EMT や線維化に関わる遺伝子を誘導するのに必須であることを明らかにする。

次に RREB1 の役割をゲノム上の結合部位を探索して調べると、TGFβシグナルを下流の SMAD2/3 が結合するエンハンサー部位近くに存在して、SMAD2/3 が結合すべきエンハンサー部分を指定する役割があることがわかる。すなわち、RAS によりRREB1 がまず一部の SMAD 結合部位に結合して、閉じられていたクロマチンを SMAD 結合可能にする役割があることがわかる。

次に、RREB1 下流で SMADリクルートに関わるさらに詳しい分子メカニズムを調べる目的で、まず RREB1 に結合するタンパク質を82種類を特定、クリスパーノックアウトスクリーニングにより DHX9 と INO80 と名付けられたタンパク質が、RREB1 が SMAD結合部位を指示するために必須の分子であることを明らかにする。

続いてそれぞれの分子の SMAD との関わりを調べると、DHX9 は SMAD3 と、INO80 は SMAD4 と結合していることが明らかになった。SMAD3-DHX9、SMAD4-INOX80 は TGFβシグナル下流で複合体を形成し、この複合体を形成することで RREB1 が指示するエンハンサー部位へリクルートされることがわかった。

次に、INO80/SMAD4 の機能について調べているが、SMAD4 は転移に関わると言われていたがそのメカニズムはわかっていなかった。Massague は SMAD4 が他の SMAD と比べ少し異なる構造を持っており、この部位に INO80 が結合すると着想し、INO80 と SMAD4 の結合部位を初めて決めることに成功している。SMAD構造を熟知したまさにプロの目を感じる。そして、INO80/SMAD4 は転写因子として働くのではなく、RREB1結合により指示された部位の転写を抑制しているヒストン構造を除去して、DHX9/SMAD3 がエンハンサー部位に結合できるように準備することを明らかにしている。

最後に DHX9/SMAD3 は、アクセス可能になった DNA結合部位と結合して、ヒストンアセチル化酵素CBP をリクルートし、転写を活性化する。

以上さすが Massague と感心する研究で、是非自分で読んでみてほしい。

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