希なバリアントを無視すると、ApoE には E2、E3、E4 の3種類のアイソフォームがあり、E2 はアルツハイマー病 (AD) 発症を抑える方向に働き、一方 E4 は AD のリスク要因であることがわかっている。ApoE の正常の機能は脂肪代謝で、血中の脂肪運搬機構の一端を担っており、脂肪が詰まったリポタンパク質粒子に他のアポタンパク質と一緒にロードされ、LDL 受容体を介して脂肪の各組織間の運搬に関わっている。従って、AD の発症を ApoE による脂肪代謝調節と絡めて考えるのが正当な気がするが、実は ApoE に結合する受容体が LDL 受容体だけではなく、他にも存在することから、脂肪代謝の枠内だけで説明することができていなかった。
その意味で今日紹介する NICO Therapeutics と Denali Therapeutics 、2つのベンチャー研究所から発表された論文は、レアバリアントも含め ApoE アイソフォームと AD の関係を純粋に LDL 受容体を介する脂肪代謝の枠内で説明した面白い研究で、11月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Decreased lipidated ApoE-receptor interactions confer protection against pathogenicity of ApoE and its lipid cargoes in lysosomes(脂質が付加された ApoE と受容体の相互作用の低下が ApoE と脂肪カーゴのリソゾーム内での病理性を低下させる)」だ。
タイトルを見ると複雑そうな印象だが、内容は明確でわかりやすい。まず、E2、E3、E4 それぞれのアイソフォームを持った脂肪が付加されたリポタンパク質を調整し、これらと LDL 受容体の結合を様々な系で調べると、E3、E4 の結合と比べ E2 では極めて低い親和性でしか反応しない。その結果、ApoE や付加された脂肪の細胞内への取り込みが E2 ではほとんど見られない。
LDLR とリポタンパク質はエンドサイトーシスにより細胞内小胞を形成し、一部はリソゾームと融合、一部は膜へとリサイクルされ、LDL 受容体が細胞表面で再利用されるが、E3、E4 を取り込んだ場合ほとんどがリソゾームに移動して、そこでトラップされた結果、LDL 受容体の発現が低下する。一方で、E2 を持つリポタンパク質はほとんど細胞内に取り込まれず、さらに LDL 受容体の細胞表面の発現が上昇する。
LDLR はアストロサイトの Aβ の取り込みにも関与が示唆されており、E3/E4 と比べると E2 は細胞表面の LDL 受容体量を高めることで AD のリスクを低減しているといえる。ただ、この結果だけでは E3 と比べ E4 の AD リスクが高くなることは説明できない。
そこで、取り込まれたとき細胞の自然免疫系を活性化する、コレステロールエステルの取り込みを調べている。コレステロールも他の脂肪酸と同じでリポタンパク質カーゴに乗って細胞間を移動する。他の脂肪と同じで、E3、E4 リポタンパク質カーゴにロードされたとき、コレステロールエステルは細胞内リソゾームに取り込まれるが、E2 では取り込みが少ない。
ところがコレステロールによる自然炎症刺激を調べると、E3 の方が E4 より炎症刺激能力が高い。従って、これだけでは E4 で AD リスクが高くなることを説明できない。
そこで AD や老化の指標として考えられているリポフスチンの蓄積に焦点を当てて、E3、E4 を比べている。リポフスチンが由来するポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールエステルは E3、E4 は同程度に取り込む。しかし、pH が低いリソゾーム内でリポフスチンが形成される量はE4により取り込まれたときの方が E3 により取り込まれるより遙かに高い。この原因はリソゾーム内で E4 リポタンパク質の方が凝集しやすく、これがリポフスチン形成を高めていると考えられる。
一方、E2 と同じで、E3、E4 もクライストチャーチ型変異が入ると、LDL と結合せず、その結果脂肪やコレステロールの取り込み、そしてリポフスチンの形成も全く起こらない。
以上の結果から、ApoE アイソフォームの AD への関わりは、E3、E4 が LDL 受容体の再利用を妨げることで、Aβ の取り込みが低下すること、そして E4 が取り込んだポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールからリポフスチンへの転換を高めることの2種類の経路を通して AD の発生に関わると結論している。
ApoE と LDL 受容体を中心に脂肪代謝だけで ApoE と AD の関係を説明しきったことは重要だ。
レアバリアントも含めApoEアイソフォームとADの関係を純粋にLDL受容体を介する脂肪代謝の枠内で説明した
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ADを脂質代謝の視点でも語れるとは。。
ADは難敵です。