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1月11日 オーストラリアは動物進化の物語の宝庫だ(1月10日号 Science 掲載論文他)

2025年1月11日
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コロナが収束して海外渡航が許されるようになってから3年間、動物や鳥を見る目的の旅行は、安全性も考えてオーストラリアにしている。驚くことに、生活圏の近くで多様な動物や鳥を見ることができる。また、実際に行かないとわからないほど実に多様性は高い。今日紹介する論文が対象にしているのはカンガルーやワラビーと、オナガキンセイチョウだが、写真に示すように種として白いワラビーが生息しているなどとは、見るまで全く想像していなかった。

今日紹介する最初の論文はダーウィンにある北部準州博物館からの論文で、65000から40000年前に多くのカンガルーやワラビーが絶滅した原因が気候変動ではないことを示唆する研究で、1月10日の Science に掲載された。タイトルは「Dietary breadth in kangaroos facilitated resilience to Quaternary climatic variations(カンガルーの食の幅が第4紀以降の気候変動への抵抗力を高めた)」だ。

90%の動物が絶滅した65000-40000年前というと、ちょうどオーストラリアにホモサピエンスが進出してきた時代になる。従って、絶滅に人間が関わるという考えは当然存在するが、気候変動が激しかった時期で、それが絶滅に繋がったと考える人も多い。

オーストラリアの場合、カンガルーに絞ってこのときの絶滅原因を調べることができる。この研究では食事の面からこれに迫ろうとしている。現在のカンガルーは草を食べており、気候変動で草原がなくなると絶滅する可能性はある。この研究では、化石の歯に残る傷跡から、鮮新世のカンガルー化石の歯を丹念に調べ、灌木も含めて従来考えられてきたより様々な植物を食べていたことを突き止めている。従って、特定の餌に依存していたために気候変動に弱かったという結論は正しくないと結論している。これを裏返すと、人類によって多くのカンガルーやワラビーが絶滅に追いやられたと考えるのが妥当なようだ。

もう一編の米国自然史博物館からの論文は、写真に示したオナガキンセイチョウの嘴の色の多様性についの研究で、12月号の Current Biology に掲載された。タイトルは「Spread of yellow-bill-color alleles favored by selection in the long-tailed finch hybrid system(オナガキンセイチョウの黄色い嘴を形成する遺伝子は自然選択で広がった)」だ。

一昨年、ダーウィンを起点に北オーストラリアを1週間楽しんだが、そのとき見たオナガキンセイチョウは写真に示すように嘴は黄色く、これが普通だと思っていた。しかし、この論文を読んでダーウィンを境に東では嘴が赤いことを知った。

この研究ではこの差が生まれる原因を調べ、赤い色の元になるカロチノイドを酸化できないために、黄色い嘴になったことを明らかにする。しかし、酵素が欠損したわけではなく、網膜には赤いカロチノイドが存在する。従って、嘴の色に関わる遺伝子が変化したと考えられる。

その遺伝子を調べると、決して単一の遺伝子で説明できるものではなく、CYPJ19 というノンコーディング RNA、酸化酵素の転写を調節する因子、これらの遺伝子をさらに調節している遺伝子、など少なくとも4種類の遺伝子が関わっていることがわかる。すなわち一つのフェノタイプに関わる遺伝子同士のエピスターシスガ起こっている。そしてこれらの変化はほぼ10万年前に起こって、黄色と赤の嘴を持つ2種類のオナガキンセイチョウができた。ただ、黄色の嘴がなぜか生存可能性が高く、5000年ほど前から境界領域では黄色を決める遺伝子の導入が進み、オレンジ色の嘴が多く見られるようになっている。実験室レベルでは特にペアリングに差がないことから、選択要因を調べることは、自然選択を理解する上で格好の材料になっている。

まだまだオーストラリアは広いので、是非機会を見つけて自然を楽しみたい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    少なくとも4種類の遺伝子が関わっていることがわかる。すなわち一つのフェノタイプに関わる遺伝子同士のエピスターシスガ起こっている。
    Imp:
    エピスターシス=異なる場所にある多数の遺伝子や対立遺伝子が相互作用して表現型に影響を与える現象
    ヒト疾患だけでなく、こんなところにも顔を出すとは。。

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