今年も気になる臨床研究として、最近気になった臨床研究をまとめて紹介していく。今日は3編の論文を紹介する。
最初は12月5日 The New England Journal of Medicine に米国衛生研究所から発表された論文で、胎児異常の出生前診断目的で行われる血液中に流れているcell free DNAの配列を調べる検査で異常と報告されたが、胎児、あるいは生まれた子供には異常がないケースを選んで、この異常が胎児ではなく潜んでいるガンによる結果である可能性を調べた研究だ。タイトルは「Prenatal cfDNA Sequencing and Incidental Detection of Maternal Cancer(出生前のcell free DNA sequencing検査で母親に偶然見つかるガン)」だ。
この研究では、cell free DNA sequencing 検査(12機関により提供されており、SNP か sequencing が用いられている)で異常、あるいは判断不明とされたケースで、胎児あるいは生まれてきた子供に異常が認められなかったケース107例について(89例が妊娠中、残りは出産後)、血液のガンマーカー、全身 MRI を用いてガン検診を行っている。48%でガンが発見されており、血液の cell free DNA 検査が極めて高い確率でガンを反映していることを示している。発見されたガンは、31例がリンパ腫で、DNA が血中にでやすいのだと思う。続いて、9例が大腸直腸ガンで、残りの4例は乳ガンという結果だ。
遺伝子検査異常のタイプも調べており、胎児や子宮筋腫で見られるトリソミーや染色体欠損とは異なることから、診断的価値は高いと思う。
次は1月9日、フランス パリのパリ病院機構から Nature Medicine にオンライン発表された論文で CAR-T 治療に用いた T細胞から白血病が発生する確率を調べた研究で、タイトルは「T cell malignancies after CAR T cell therapy in the DESCAR-T registry( DECART-T に登録された CAR-T 治療後に発生した悪性化)」だ。
この病院機構の中には最初の免疫不全遺伝子治療を行い、白血病発生を経験したサンルイ病院も含まれており、移植した細胞のガン化の問題はフランスの得意分野と言っていい。この研究では CAR-T に DESをかぶせたデカルト-T に登録して B細胞系のガンに CAR-T 治療を行った患者さん、3066人を4年間追跡して、リンパ系の悪性腫瘍の発生を調べた結果だ。治療後4年たつと0.6%に T細胞の悪性腫瘍が見つかっており、通常よりは高いと思う。しかし、移植した CAR-T 由来と思われるものは1例だけで、頻度は低いという結果だ。また、遺伝子を調べると PLAAT4 と呼ばれるガン抑制遺伝子として知られる遺伝子に導入したキメラ遺伝子が飛び込んでおり、これがガンを引き起こしたと考えられる。ただ、それが悪性細胞として検出されるのに4年かかって居ることから、今後他にどのような変化が起こったのか重要な材料だと思う。
最後のメリーランド大学からの論文は遺伝子改変ブタ心臓移植2例目で、我々が異種移植の問題を解決できていないことを明確に示す研究で、1月8日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Transplantation of a genetically modified porcine heart into a live human(遺伝子改変されたブタ心臓のヒトへの移植)」だ。
最初の移植例は60日目に亡くなりその結果は論文として詳しく報告されており、ここでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22458)。死因は血管網の破壊で、リンパ球の浸潤がないことから、何らかの抗原に対する抗体が引き起こした異常と考えられ、例えばガンマグロブリン投与などは避けるべきであることが示された。
2例目は最初の例を参考にしながら2例目に臨んだが、今回も30日ぐらいは正常に機能したにもかかわらず、その後は治療に全く反応せず40日目に治療を中断、死亡している。
今回はガンマグロブリン投与は行っていないが、IgG を中心とする抗体の沈着と血管内皮への補体沈着が見られて、血管異常により心臓の機能が失われている。ただ、最初の例で疑われたブタの持つ病原菌の作用は否定された。
今回の結果を次に生かして少しでも進展が見られるか、拒絶反応の神秘はまだまだ解けていない。
治療後4年たつと0.6%にT細胞の悪性腫瘍が見つかっており、通常よりは高いと思う。しかし、移植したCAR-T由来の思われるものは1例だけで、頻度は低いという結果だ。
Imp:
遺伝子治療ベクターも洗練されてきたようです。
ブーム第2波は続きます!