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1月18日 アルツハイマー病研究2題(1月9日号 Cell 掲載論文他)

2025年1月18日
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昨年はレカネマブの登場でアルツハイマー病(AD)を Aβ 除去により治療する臨床研究が一段と進んだが、AD 発症には Tau 凝集、そして ApoE の機能などが複雑に関わっており、今年はこの領域の研究も臨床応用されていくのではと期待している。

そこで今年になって発表された2編のアルツハイマー病研究論文を紹介する。最初のバイオベンチャー Denail Therapeutics からの論文は、ApoE アロタイプがなぜアルツハイマー病の重要なリスク要因になるのかについての研究で、1月9日号 Cell に掲載された。タイトルは「Decreased lipidated ApoE-receptor interactions confer protection against pathogenicity of ApoE and its lipid cargoes in lysosomes(脂質負荷された ApoE と受容体の相互作用が ApoE と脂肪カーゴのリソゾームでの病理過程を抑制する)」だ。

アルツハイマー病リスクに大きく寄与する ApoE4 が、Aβ の除去を遅らせ、炎症を高めることが知られているが、この現象の背景となるメカニズムは意外とわかっていない。この研究では、ApoE の本来の機能、すなわち LDL 受容体(LDLR)と結合することで、脂肪カーゴを細胞内に取り込ませるという反応をアロタイプ別に再検討することからはじめ、AD の低リスク要因の ApoE2 がほとんど LDLR と結合しない一方、ApoE3 と ApoE4 は LDLR と結合して脂質の取り込みを高めることを発見する。実験の詳細は省くが、この発見から研究を進め以下の結論を得ている(実験の詳細は省略する)。

LDLR と ApoE の関係は当然の話なのに、なぜこれまでこのような研究が行われなかったかを考えると、通常は ApoE4 のリスクを説明しようとどうしても ApoE3 と比較する研究が行われ、低リスク要因の ApoE2 の機能に注目が集まらなかったためではないかと思う。

さて、結論だが、

  1. ApoE3 と ApoE4 は同じ強さで LDLR と結合し、脂質の取り込みに関わる。ただ、この結果 LDLR のリサイクルが低下し、Aβ の除去が遅くなる。一方、ApoE2 はほとんど LDLR に結合しないため、ミクログリアの LDLR はフリーのまま Aβ 除去に関わることができる。
  2. ミクログリアだけでなく、アストロサイトや神経でも脂質の取り込みが高まると、細胞炎症が高まって、障害が起きる。
  3. さらに、長いコレステロールエステルをリソゾームへ取り込むことで、リソゾーム内でのリポフスチン形成を促す。リソゾームへ移行するまで ApoE3nとbApoE4 の違いはないが、リソゾーム内の低い pH での凝集は ApoE4 が高く、これが ApoE4 がさらに AD の高いリスクとなる要因になる。
  4. 最後に、ApoE3 も ApoE4 も、クライストチャーチ型変異を導入すると LDLR と結合するプロテオグリカンとの結合が低下し、LDLRのりサイクリングを維持し、脂質の取り込みを抑制することでリスクを防ぐ。

以上が主な結果で、この結果に基づく様々な介入可能性が生まれたと思う。期待したい。

もう一編はハーバード大学からの論文。キセノンを一日一回吸入するだけで Aβ や Tau による神経細胞障害を抑えることができるという研究で、1月15日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Inhaled xenon modulates microglia and ameliorates disease in mouse models of amyloidosis and tauopathy(キセノン吸入はミクログリアを変化させてアミロイドや Tau のマウスモデルの AD 進行を抑える)」だ。

キセノンはこれまでもグルタミン酸受容体のシグナルを変化させることが知られており、神経の病気に使われていたようだ。従って、この研究は理屈抜きにキセノンが AD に効果があるという仮説を検証している。そして、キセノンを吸わせると、ミクログリアに大きな変化が誘導されることを発見している。実験の詳細を省いて結論をまとめると、

  1. キセノン吸入は AD により活性化されたミクログリアの炎症反応を抑えるとともに、インターフェロン γ に反応して、貪食能などマクロファージとしての機能を高める。
  2. この変化は、キセノンがおそらく CD8T細胞に働くことでインターフェロンの分泌が高まり、これがミクログリアの貪食処理能力を高めていると考えられる。実際、インターフェロンの活性を抑えると、キセノンの効果は見られなくなる。
  3. 他にもグルタミン酸受容体など、様々な効果が AD を守る方向に働いている。
  4. 結果、Aβ 蓄積モデルでも、Tau 異常モデルでも、キセノン吸入により神経細胞ロスを抑え、認知症の侵攻を防ぐ。

以上が結果で、本当のところの分子メカニズムの理解は難しいが、臨床治験がすぐ始まると思える研究だ。

以上、AD 制圧のための多様な研究が着々進んでいる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Aβ蓄積モデルでも、Tau異常モデルでも、キセノン吸入により神経細胞ロスを抑え、認知症の侵攻を防ぐ。
    Imp:
    なんとキセノンが!
    臨床治験に進んでほしいです。

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