アルツハイマー病のメカニズムの研究は様々な動物モデルが利用されることで急速に進んでいるように感じるが、それでもAβの蓄積によるアミロイドパチーと、異常 Tau分子によるタウノパチーの関係などは諸説存在し、我々人間ではどうなっているのか、まだまだわからないことが多い。
今日紹介するミュンヘン大学からの論文は、アルツハイマー病 (AD) を、初期段階から長期に追跡するコホート研究に参加している患者さんの様々な脳画像から Aβ が神経興奮誘導を通して Tau分子の伝搬を示唆する研究で、仮説に基づいての研究とは言え発想が面白い研究だ。1月22日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Amyloid-associated hyperconnectivity drives tau spread across connected brain regions in Alzheimer’s disease(アミロイドによる神経の結合性亢進がアルツハイマー病で Tau が脳全体に伝搬させている)」だ。
これまでも紹介してきたように Aβ や Tau が脳内で蓄積している様態を PET を用いて検出することができる。この研究では、これに加えて安静時の機能的MRI (fMRI) を同時に調べ、神経の活動性を測定している。
これらの画像から AD のメカニズムに関して何がわかるのかと思ってしまうが、この研究は最初から明確な仮説をたて、その仮説と脳画像が一致するかを議論している。これは介入や遺伝子操作などが殆ど不可能な人間の脳研究では当然のことで、最終的なメカニズム解析は、培養かあるいは動物モデルを用いて行う必要がある。
では、この研究グループが証明したいと考えている仮説とは何か?これについてはタイトルで明示されており、Aβ が神経を興奮させることで細胞間の結合性を高め、これが Tauタンパク質の伝搬を促進し、タウノパチーが脳全体に広げるドライバーになっているという仮説だ。もちろんこれは新しい仮説ではなく、Aβ が神経興奮を誘導することや、Tau が下側頭葉から神経結合に従って伝搬することはすでに示されてきた。ただ、人間でこれらを示すことは簡単でない。
この研究では Aβ を検出する PET と fMRI の脳活動状態を比べ、Aβ が蓄積している場所が fMRI で神経活動が亢進している部位とオーバーラップすることを確認している。すなわち、Aβ の蓄積が神経の加興奮を誘導している可能性は人間の脳画像検査により強く示唆される。この研究ではさらにグルコースの取り込みを調べる FDG-PET でもこれを確認している。
次に検討したのは、Aβ により過興奮が誘導されると、神経シナプス結合性が高まり、これが Tau の伝搬を促進している可能性だ。このために、まず Tau-PET を用いて患者さんの経過を観察し、Tau の震源地がこれまで示されていたように下側頭葉に存在すること、そしてこの震源地から脳各領域に時間をかけて伝搬するのが PET の経過観察で追跡できるが、この伝搬時に伝搬先の Aβ の蓄積があるほど、伝搬しやすくなっていることを発見する。
重要な結果は以上で、現象論ではあるが初期 AD で Aβ が蓄積し始めると、これが神経興奮を誘導して、シナプス結合性が自然に高まる。この結合性の促進は、異常Tau がシナプスを超えて伝搬する過程を促進し、結果タウノパチーが脳全体に広がるという結論は、少なくとも AD の画像診断結果と一致する。しかも、この一致は1例、2例の話ではなく、このコホートに参加している多くの患者さんで認められるという結果だ。
脳画像からは矛盾がないと私も思うが、気になる点もある。もし Aβ の働きが神経興奮誘導だとすると、もっとAβに対する抗体が効いても良いのではと思うし、ApoE変異(Christchurchi型)で Aβ が存在するのに Tau が全く変化しないのは、この仮説では説明できていないと思う。
初期 AD で Aβ が蓄積し始めると、これが神経興奮を誘導して、シナプス結合性が自然に高まる。
この結合性の促進は、異常Tau がシナプスを超えて伝搬する過程を促進し、結果タウノパチーが脳全体に広がる!
Imp:
この疑惑は、結局どうなったのでしょうか?
Did a top NIH official manipulate Alzheimer’s and Parkinson’s studies for decades? | Science | AAAS
早い段階でAβ蓄積が見られること、また脳が一種の過興奮になり、寝られなかったりすることは知られています。