免疫チェックポイント治療が広く使われるようになって、ガンに対する免疫を維持させることの重要性が明らかになり、このブログでも何度も紹介したように、サイトカインや抗体など様々な方法でこれを実現しようと試みが続いている。
今日紹介する Genentech 社からの論文は、IL-27 が抗原特異的キラー細胞を特異的に高める作用を介して、ガン免疫療法の新しい可能性を開くことを示した研究で、2月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「IL-27 elicits a cytotoxic CD8 + T cell program to enforce tumour control(IL-27はCD8陽性細胞障害性T細胞を誘導して腫瘍抑制を支援する)」だ。
Genentech といえば私が現役だった20世紀の終わりから21世紀にかけて急成長したバイオテックベンチャーの代表で、組み換え生理活性ペプチドや抗体薬を多く世に出してきた。当然のことながら、現在はガンに対する薬剤の開発により力を入れている。
この研究ではヒトのメラノーマ組織でCD8キラーT細胞が活性化していることが明確な組織とそうでない組織でサイトカインの発現を調べ、ガン組織でキラーT細胞活性を高めているサイトカインのリストを作っている。すると、強い炎症に伴うインターフェロンγ や IL-32、そして腫瘍内リンパ組織形成に関わる LymphotoxinA/B とともに、IL-27 がリストされてきた。
IL-27 はマクロファージや樹状細胞由来で、キラーT細胞やNKT細胞を活性化することが知られていたが、同時に IL-10 を誘導して抑制性T細胞も誘導してしまうことが知られており、ガン免疫に対する効果は限定されると考えられてきた。しかし IL-27 を抑制するとガンの増殖を助ける方向に作用し、T細胞から IL-27 受容体をノックアウトするとガン抑制効果が消失するので、もう少し可能性を確かめようと研究を進めている。
マウス大腸ガンを移植したあと、IL-27 遺伝子をコードするプラスミドを直接肝臓細胞に導入して肝臓細胞に IL-27 を分泌させると、見事に腫瘍を拒絶することに成功している。こんな乱暴な投与をしてサイトカインの副作用はないのかと心配するが、もともと IL-27 は炎症を抑制することが知られており、IL-27 が高いレベルに保たれていても、マウスの体重はコントロールより増えるぐらいで、副作用はないと結論している。
あとは single cell RNA sequencing などで、IL-27 が T細胞のキラー活性を高め、増殖を促進する一方、免疫反応を抑えるフィードバックは抑えることを示して、まさにいいことずくめのサイトカインであることを示している。
ただ、プラスミドを直接肝臓に導入するのはヒトでは難しいので、IL-27 に抗体の Fc部分を結合させた体内寿命の長い IL-27 を作成、様々な腫瘍モデルを使って、容量依存的に腫瘍を抑制できる可能性を示している。マウスでは1Kgあたり10mgの一回投与でほぼガンが完全に抑制できているが、人間だと500mgぐらいが必要になる。
以上は全てマウスモデルなので、ヒトにも使える可能性を示す目的で、ヒトのガンデータベースから腫瘍組織で IL-27 レベルの高い人とそうでない人に分けて予後を再検索すると、IL-27 が高い患者さんでははっきりと生存率が高いことを示し、人間への応用も有望であることを示している。
サイトカインの抗ガン作用など調べ尽くされているように思えるが、まだまだ調べ尽くせておらず、思いがけない宝の山が残っていることを示す研究だと思う。治験へのハードルは高くないように思うが、期待したい。
ヒトのガンデータベースから腫瘍組織でIL-27レベルの高い人とそうでない人に分けて予後を再検索すると
、IL-27が高い患者さんでははっきりと生存率が高いことを示し、人間への応用も有望である!
Imp:
Cytokineを抗ガン剤として使う試みが熱いです!
Genentech社はこちらに紹介あり!
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