我々の脳の中に形成される場所細胞に関しては、マウスやラットの実験のような小さな領域だけでなく、コウモリを用いたもっと広い範囲の場所記憶にも適用できることがわかっている。しかし、ウミガメや渡り鳥のような頭の中に形成されていると思われる地球規模のマップに関しては、地磁気を感知することで行われることが磁気検出機構の研究から徐々に明らかにされてきた。しかし本当にそれが地球規模のマップ形成に関わるのか調べられたことはなかった。
今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は、研究室の水槽に例えばフロリダ沖、あるいはハイチといった場所の異なる地磁気を再現し、そこで条件付けたウミガメがその地磁気パターンを覚えているかを調べる実験を行い、ウミガメの地磁気検出について確認した研究で、2月12日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Learned magnetic map cues and two mechanisms of magnetoreception in turtles(ウミガメが学習した地磁気マップが行動を指示するときの磁気を検知する2種類のメカニズム)」だ。
ウミガメが地球規模の移動を敢行するとき、地域の磁気の違いを感じていることについては異論はないが、そのメカニズムには諸説存在している。まず各地域での地磁気の違いを感じるには、脳の執念に存在する磁気を帯びた鉄分がセンサーとして機能すると考えられている。また、水中を移動するとき体液との磁気の違いにより誘導電流が生じ、これを移動するためのコンパスとして用いていると考えられている。他にも、網膜にある特殊な色素に光が当たったときにできる不安定な電子状態が方向性を決めるコンパスの働きをしているという考えもある。
この研究では地球上の異なる地域の地磁気を再現し、例えばフロリダで餌付けをした記憶が維持されているかを地磁気を変化させて調べる実験を行い、間違いなくウミガメが地磁気の違いを感じて、それを脳内の地図として形成できることを示している。このマップはかなり正確で、それほど離れていない領域の地磁気でも検出できる。
最初は餌付けした領域と餌がないという経験をした領域間で比べ、地磁気によるマップ形成が存在することを示したが、移動途中のような経験とは異なる地磁気の場所も餌付け場所とは正確に区別していることを示している。
そして、餌付けの記憶領域を目指すときの方向性も、おそらく誘導電位を用いた検出システムで検知していることを、卵からかえったウミガメの泳いでいく方向性から調べている。
この研究では、脳を調べる実験は全く行っていないが、様々な条件で電磁波に晒す実験を行い、地磁気マップは予想通り電磁波には全く影響されないが、誘導電位を感知するコンパス機能は、電磁波照射により影響されることを示している。また、光を吸収する色素による電子の乱れを検知する種ステムについては、ウミガメでは利用していないことも確かめている。
以上が結果で、地球規模の磁気変化を直接感じ、また方向性を決めるコンパスとしても利用していることに改めて感心するが、この結果脳内にどのような場所細胞が形成されているのかさらに興味がそそる。人間の興味は尽きないが、野生動物の研究がどこまで許されるのか難しい判断が迫られる。
1:間違いなくウミガメが地磁気の違いを感じて、それを脳内の地図として形成できることを示している。
2:このマップはかなり正確で、それほど離れていない領域の地磁気でも検出できる。
Imp:
『量子力学で生命の謎を解く』を思い出しました。
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