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3月10日 新生児期に膵臓β細胞の増殖を誘導できる真菌(3月7日 Science 掲載論文)

2025年3月10日
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乳児期の細菌叢の形成が、ホストの免疫や代謝に大きな影響を及ぼすことは何度も紹介してきた。このとき、細菌叢からの代謝物によりホスト側の細胞がエピジェネティックに変化して、持続的に反応性を変化させることが示されており、持続的な健康を保障するための細菌叢操作をどうすれば良いのか様々な研究が進んでいる。

今日紹介するユタ大学からの論文は、離乳後固形物を食べるようになるまでの時期に真菌の一種の Candida dubliniensis が腸内に発生すると、膵臓のβ細胞の増殖が高まり、将来の糖尿病発生を防ぐという驚くべき研究で、3月7日 Science に掲載された。タイトルは「Neonatal fungi promote lifelong metabolic health through macrophage-dependent b cell development(新生児期の真菌は一生涯続く代謝的健康をマクロファージ依存的β細胞発生を通して保障する)」だ。

この研究のハイライトは、無菌マウスと通常の実験室マウス(SPFマウス)の膵臓のβ細胞量を、大人になってから比べたという一点にある。今まで行われなかったのが不思議だが、無菌マウスではβ細胞量が半分程度に減っている。

細菌叢の効果がいつ発揮されるのかを調べる目的で、殆どの細菌を殺せる抗生物質を様々な時期に投与してβ細胞量を比べると、マウスで10日から21日まで投与した群でだけβ細胞量が低下した。

この時期は離乳期から固形食に変化する時期で、細菌叢も大きな変化が起こる。ただ、この研究ではこの変化とともに真菌に着目し、この時期にマウスでは C.dublinensis が増加し、その後消失する一過性のウェーブが見られることを示している。実際、この真菌を無菌マウスに移植するとβ細胞量が増加する。

このメカニズムを探るため C.dublinensi を投与したマウスの膵臓を調べると、C.dublinensi を投与した群でだけマクロファージの数が上昇していることがわかる。ただ、特に活性化されているわけではなく、C.dublinensi により何らかのメカニズムで膵臓へのリクルートメントが高まると考えられる。

膵臓のマクロファージを一時的に除去する実験を通して、C.dublinensi が効果を発揮するためにはこのマクロファージの上昇が必須で、これにより長く持続するβ細胞の増加が見られることがわかる。そして、その結果投与を受け膵臓内のマクロファージが上昇したマウスは血中インシュリンの濃度が高い。

あとは、マクロファージを誘導する C.dublinensi 側の条件を探り、完全に分子を特定したわけではないが、細胞壁抗生物質の変化が重要で、例えばマンナンの量が低下すると、誘導能力が高まること、あるいは菌糸の形態なども誘導能に関わることを示している。とすると、将来細胞壁成分のみで膵臓の増殖を高める可能性がある。

最後に、こうしてβ細胞の増殖を誘導すると糖尿病の発生を遅らせることができるか、1型糖尿病マウスを用いて調べ、最初の時期にβ細胞を増やしておくと、確かに病気の発症が遅れることを示している。さらに驚くのは、薬剤投与でβ細胞を障害して C.dublinensi を投与すると、回復が早まることも示している。

結果は以上で、離乳後固形食に移る食の変化に応じて起こる細菌相変化とともに、特殊な真菌が増えてマクロファージの膵臓へのリクルートを増やし、β細胞を増やしてくれるという面白い話だ。これが人間にも当てはまるなら、1型、2型を問わず将来の糖尿病発症を抑える方法の開発に繋がる重要な発見だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    例えばマンナンの量が低下すると、誘導能力が高まること、あるいは菌糸の形態なども誘導能に関わることを示している。とすると、将来細胞壁成分のみで膵臓の増殖を高める可能性がある
    imp:
    菌体成分で再生医療!?
    面白い発想です。

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