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3月12日 肥満に至る脳の問題を探る(3月4日号 Cell Metabolism 掲載論文)

2025年3月12日
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ついついお菓子に手が出るのは食べた後の快楽回路が存在するからで、この脳回路が我々を肥満に導いていることはあまり疑う人はいない。実際、動物に甘くて脂肪の多いおいしい食べ物を与えると、ドーパミンが分泌され、快楽回路が活性化される。また、人間でも同じような実験が行われて、この考えを支持してきた。

しかし、今日紹介する米国衛生研究所からの論文は、脂肪分が多く甘い食品に対する人間の反応は決して単純なものでないことを示した研究で、3月4日 Cell Metabolism に掲載された。タイトルは「Brain dopamine responses to ultra-processed milkshakes are highly variable and not significantly related to adiposity in humans(高度に加工したミルクシェークに対する人間のドーパミン反応は極めて多様で肥満との関係は見られない)」だ。

脳内のドーパミン分泌を測るために様々な方法が開発されているが、刺激に応じての反応する時間過程を調べたい場合は PET を用いる。この目的に開発されたのが、炭素11でラベルされた raclopride を用いる PET で、受容体に結合した raclopride はドーパミンが分泌されると受容体から解離するので、アイソトープシグナル減少として測定できる。

研究は単純で、一晩の絶食のあと PET検査を行い、絶食後の PET検査、そしてミルクシェーク摂取後30分の PET検査で、受容体に結合した raclopride の量を測定している。おそらく最初は全員で結合raclopride の減少(=ドーパミン分泌)が見られると予測したと思うが、期待に反し、線条体のドーパミン量の測定値は空腹時とミルクシェーク接種後で殆ど変化を認めていない。

しかも、一人一人受容体に結合した raclopride の変化を調べると、ミルクシェークで解離するケースがある一方、逆に結合が上昇するケースも数多き存在し、実際に食したミルクシェークへの反応は人それぞれということがわかる。

事実それぞれの被検者にミルクシェークを評価させると、ドーパミンが分泌されたレスポンダーは、おいしい、もっとほしいと感じるとともに、絶食後の空腹感が高いことがわかる。かといって、この反応と肥満度や血糖などの身体的指標と比べると、殆ど相関はない。従って、最初ミルクシェークを食べたときの反応だけで将来の肥満度などを予測することはできない。

ただ絶食後の空腹感の強さは強くドーパミン分泌と相関が高いので、この空腹感の多様性の原因を探ることが重要になる。そして、ミルクシェークによく反応した人は、ビュッフェ形式の食事で自由に選んで食べられる状況で、甘くて脂肪の多いクッキーを選ぶ傾向が見られた。

以上が結果で、単純にドーパミン分泌が快楽回路だとするのは人間では当てはまらないが、特に空腹感の強さと相関する脳回路の形成は肥満への危険シグナルになることを示している。

米国では肥満に至る行動を変化させるための研究に大きな助成金が出ているが、動物実験ではなく、人間で調べることの重要性がよくわかる結果だと思う。今後人間の欲に関して単純化して話をするのはやめておこう。

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