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5月20日 放射線治療後に転移ガンが急に増大することがあるのはなぜ?(5月14日 Nature オンライン掲載論文)

2025年5月20日
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ガン患者さんを受け持ったことがある臨床医なら経験があると思うが、放射線治療してガンが縮小したのに、他の転移巣が急に大きくなることがある。これは、1)局所照射といえども免疫や造血抑制効果がある、2)放射線により炎症性サイトカインが誘導されそれがガンの増殖を促進する、3)免疫抑制環境が誘導される、など様々な可能性が提唱されているが、今なお明確な答えはなかったようだ。

今日紹介するシカゴ大学からの論文は、この現象の背景に増殖因子の一つamphiregulin (AREG) が放射線治療により誘導される結果である可能性を示した研究で、5月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Radiation-induced amphiregulin drives tumour metastasis(放射線により誘導されるamphiregulinが腫瘍の転移を促進する)」だ。

おそらく実験を積み重ねるというより、何らかのきっかけでAREGがガンの転移巣を活性化するのではと着想して、まず放射線治療前後の肺ガン病巣をバイオプシーして、上昇する遺伝子を調べた結果、ARE は上昇する分子のトップ3に入ること、そして照射後AREGが上昇した患者さんでは、ガンの予後がはっきりと悪いことを明らかにし、あとは動物実験でAREGの効果について調べている。

放射線に比較的抵抗性の肺ガンを移植し、それに放射線照射を行うと、追加にAREGが誘導され、転移の数は減るが、転移巣のガンの増殖が著しく早まることを見つける。そして、ガン細胞から AREG遺伝子をノックアウトして同じ実験を行うと、放射線を当ててもガンの増殖が早まるこはないことを確認する。またAREGを注射するだけでも転移ガンの増殖が高まる。同じ現象は、手術で腫瘍を取り除いても決して起こらないので、放射線特異的な現象であることがわかる。

放射線照射がなぜAREGを誘導するのかについては、インターフェロンが媒介している可能性を示唆しており、放射線照射が炎症を誘導することで、腫瘍を活性化するというモデルに近い。

この研究では、AREGの作用メカニズムにより焦点を当てて研究しており、AREG刺激を受けてリン酸化を受けたEGF受容体が、特に腫瘍組織の単球で発現していること、この結果これまで何度も紹介してきたガンを助けて、ガン免疫を抑えるマクロファージクラスターがAREGで誘導されることを、主にガン組織に集まる血赤経細胞をsingle cell RNA sequencingで解析して明らかにしている。

さらにAREGはEGF受容体を発現する場合、ガン細胞自体にも働いて、CD47の発現を上昇させる。この表面抗原は、マクロファージから正常細胞を守る標識で、この発現が上昇するとマクロファージに貪食されなくなる。この結果、ガン抗原のプロセッシングは低下するので、免疫が抑制される。また貪食されずに死にかけの腫瘍細胞が残り、周囲環境を変化させてガンの増殖を助ける可能性もある。

以上の結果は、AREGに対する抗体を用いて放射線により誘導される負のサイクルを止められる可能性を示唆している。事実、担ガン動物に放射線を当て、そのときAREGに対する抗体も投与すると、転移ガンの増殖を抑えることができる。このとき、AREG受容体、EGF受容体のリン酸化をブロックすると、さらに効果が高まることも示している。

同様に、AREG抗体投与と同時に、ガン細胞を守るCD47に対する抗体を併用すると、さらに高い抗腫瘍活性を見ることができた。

結果は以上で、AREGだけで全て説明できるとは思えないが、AREGに対する抗体のガンを抑制する効果は、臨床でも期待できるのではないだろうか。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1.AREGに対する抗体をもちいて放射線により誘導される負のサイクルを止められる可能性を示唆している。
    2.AREG抗体投与と同時に、ガン細胞を守るCD47に対する抗体を併用すると、さらに高い抗腫瘍活性を見る。
    imp.
    BADSCOPAL効果!
    抗体療法に期待!

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