現在では食欲調節に関わる神経回路については GLP-1 やグレリンなどいくつかの経路が関わる複雑な系であることがわかっているが、おそらく最初に明らかになったのは、レプチン欠損の obマウスの解析に始まったレプチンが調節する AgRP 、NPY を発現する二種類の神経、そしてそれぞれにより刺激、あるいは抑制されるメラノコルチン受容体4 (MCR4) を発現した食欲抑制神経が関わる回路だと思う。
最近になって肥満を示す様々な遺伝子変異の解析から、視床下部の脳室の壁に接して存在する神経の繊毛形成に関わる遺伝子が変異することで肥満が起こることが知られるようになり、MCR4 を発現する神経の刺激調節に繊毛形成が関わることが明らかになってきていた。
今日紹介するテキサス大学 Southwestern 医学センターからの論文は、繊毛内での MCR4 刺激に関わる新しいG共役型受容体の発見で、6月5日号 Science に掲載された。タイトルは「GPR45 modulates Gα s at primary cilia of the paraventricular hypothalamus to control food intake(視床下部室傍核の GPR45 は摂食を調節する)」だ。
我々の現役時代、ショウジョウバエやゼブラフィッシュで行われたように、マウスでも突然変異をランダムに誘導してその形質のライブラリーを作る大変なプロジェクトが世界で行われ、我が国でも一つプロジェクトが走っていたことがある。この研究は、この前向き遺伝学と呼ばれる方法で肥満に繋がる変異を探す過程で GPR45 変異が肥満を誘導するという発見から始まっている。GPR45 と肥満との関係がこれまで発見されていなかったということは、ゲノムが明らかになりクリスパーで遺伝子変異が容易になった今も、前向き遺伝学が重要であることを示しているのかもしれない。
GPR45 を改めてノックアウトして肥満の原因を調べると、基本的には食欲が抑えられずに食べ過ぎることによる肥満であることがわかる。
次に、GPR45 の発現を調べると室傍核神経に発現しており、MCR4 発現神経特異的に GPR45 を欠損させると肥満が生じることから、MCR45 刺激による食欲調節に関わることが明らかになった。
そこで GPR45 遺伝子に蛍光遺伝子を導入して室傍核神経内での局在を調べると、ほとんどが繊毛で発現しており、繊毛へ分子を輸送する TULP3 分子により繊毛膜上に局在していること、そしてこの局在によりGタンパク質共役型受容体に結合する Gαs 分子が GPR45 とともに繊毛内に濃縮されること、その結果繊毛内で Adenylcyclase3 が活性化して、cAMP の濃度が高まることを明らかにしている。
GPR45 と adenylcyclase3 との関係をさらに調べるため、肥満を示す adenylcyclase3 の点突然変異を組み合わせる実験を行い、両方の変異を合わせても単独の変異と同じレベルの変異でとどまることから、GPR45 は Gαs を介して繊毛内の adenylcyclase3 を活性化し、食欲調節に関わることを明らかにした。
とすると GPR45 を刺激する分子は新しい食欲調節分しかと思うが、この研究では GPR45 の役割は繊毛に分布している MC4R に Gαs を供給することが GPR45 の役割であることを様々な実験から結論している
主な結果は以上で、まとめてしまうと GPR45 は TULP3 によって繊毛に運ばれるとき、Gαs を一緒に運ぶことで繊毛内の Gαs 濃度を高め、MCR4 刺激による adenylcyclase 活性化の閾値を上げているという話になる。
発生では shh シグナルを受ける smo が繊毛内に局在することで、シグナルの感度を高めていることが示されているが、食欲中枢に関わる MCR4 も同じような仕組みで繊細な調節をしていることを明らかにした研究だ。しかし、前向き遺伝学が今も使われていたことになんと言っても驚いた。
GPR45はTULP3によって繊毛に運ばれるとき、Gαsを一緒に運ぶことで繊毛内のGαs濃度を高め、MCR4刺激によるadenylcyclase活性化の閾値を上げている!
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食欲中枢に関わるMCR4も繊細な調節をしている!