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6月22日 タコは対象物に集まった細菌叢を手がかりに好き嫌いを決めている(6月17日 Cell オンライン掲載論文)

2025年6月22日
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アフリカのシクリッドは口の中で子供を育てることやクエの口の中を掃除する代わりに敵から守ってもらうベラの仲間が存在することはよく知られているが、視覚の及ばない場所で餌と間違わない認識が行われているはずだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、タコが視覚が効かない夜の海や岩の隙間を長い足を伸ばしてサーチし、餌とそれ以外を区別する仕組みの一端を明らかにした研究で、6月17日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Environmental microbiomes drive chemotactile sensation in octopus(環境の細菌叢がタコの化学的触覚感覚を決める)」だ。

このグループは2020年にタコの足に存在して海中で特定の化学物質を感知する感覚受容体 (CR) を明らかにする論文を発表していた。26種類の CR がゲノム上に存在するようだが、この研究では最初に遺伝子クローニングされ、研究が進んでいる CR1 に焦点を当てている。

また、触覚の機能として、生きたカニと死んだカニを区別する行動、及び卵を守るとき死んだ卵を区別して排除する行動を選んで、このときの区別に CR1 がどう関わるかを研究している。

CR は匂いと同じで化学化合物を認識するので、区別に繋がる化合物を明らかにする必要があるが、死んだカニの甲羅や卵の殻に多くの細菌叢がとりついて分解を始めることに着目し、細菌叢の構成成分のなかの100種類近くを個別に培養し、細菌の分泌化合物を含む上清の刺激活性を、CR1 遺伝子を導入したヒト細胞株を用いて、パッチクランプ法で調べている。

大変な実験だが、結果は予想通りでかにの甲羅由来のバクテリアではシュードモナス・アルカリゲンスが、排除された卵の殻からはビブリオ・アルギノリティクスの上清が刺激効果があることがわかった。そして、それぞれから最も強い反応を誘導する2種類の有機化合物 H3C と LUM を単離している。切り離したタコの足に添加する実験でも、反応パターンは異なるものの、強い足の反応を誘導することに成功している。

次に、CR1 と H3C 、 LUM を含む様々な化合物との結合を構造学的に調べ、CR1 は水に溶けない非親水性化合物と結合するポケットを持っているが、非親水性化合物であれば同じように反応するわけではなく、構造的にはポケット周辺にある異なるアミノ酸残基と水素結合の仕方で、異なる化合物と結合していることがわかった。カルシウムの流入に関わるチャンネル構造との関係で見ると、LUM や H3C はチャンネルを閉じているアミノ酸のポジションを変化させて、カルシウムの流入を高めることを示している。

以上の構造学的知識の上に、もう一度死んだ甲羅や排除された卵を見るとそれぞれ H3C や LUMg が死亡とともに濃縮し始め、さらにこれらの化合物により吸盤による結合が抑えられていることを確認している。

タコの感覚についてこれほど大々的に真面目に研究を進めたことに脱帽するが、これほどの研究を支えている今迫害にも負けずトランプと闘っているハーバード大学にも敬意を表したい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    もう一度死んだ甲羅や排除された卵を見るとそれぞれH3CやLUMgが脂肪とともに濃縮し始め、さらにこれらの化合物により吸盤による結合が抑えられている!
    imp.
    タコの不思議な感覚器官!

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