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6月27日 進む抗糖尿病薬の開発(6月23日 Cell オンライン掲載論文)

2025年6月27日
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GLP-1 アゴニストや SGLT2 阻害剤の開発で、2型糖尿病 (T2D) の包括劇な管理が可能になり病気の進行を抑えることが可能になったが、T2D の背景にある組織のインシュリン抵抗性を改善する薬剤は進んでいない。武田薬品が開発した PPARγ 作動薬ピオグリタゾンはインシュリン感受性を改善すると期待されたが、副作用のために利用されていない。最近紹介したノボ・ノルディスクからの NK2R 作動薬はインシュリン分泌に影響せず食欲を落として脂肪を燃焼させてインシュリン感受性を上げるので少しは期待できるが、筋肉に対する作用は期待できないように思う。

これに対し今日紹介するカロリンスカ大学からの論文は、インシュリン感受性を高める王道と言える筋肉の β2 受容体を標的にして、cAMP 合成を上昇させずにグルコースの取り込みだけを高める薬剤を開発し、すでに第1相治験まで終えて発表された研究で、6月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「GRK-biased adrenergic agonists for the treatment of type 2 diabetes and obesity(GRKを選択的に活性化するアドレナリンアゴニストは2型糖尿病と肥満を治療できる)」だ。

β2 受容体のアゴニストは喘息の吸入剤として使われるが、ボディービルダーの間では筋肉増強剤として密かに使われている薬剤だ。このような使い方がされているのは、β2 受容体が Gタンパク質と結合してcAMP 合成を高めるクラッシック経路に加えて、β2 受容体をリン酸化する GRK を介する別の経路が存在し、特に骨格筋に介してはグルコースの取り込みを高めることが知られているからだ。ただ、両方が存在してしまうと、心拍数が上がり、心筋肥大が起こるといった重篤な副作用が起こる。

この研究では心臓への作用の中心である cAMP 合成活性が低く GRK 活性化の作用が強いことが知られている Bamethane を化学的に変えて、GRK 経路にできるだけ選択的な薬剤を設計する中で、目的に合ったいくつかの化合物を見出している。

この薬剤を含む様々な β2 受容体作動薬を Gタンパク質との共役、グルコース取り込み、そして arrestinとの結合による β2 受容体不活性化などを指標に評価し、新しい化合物が期待通り GRK 活性化とグルコース取り込みへの選択性が高いことを確認する。

次にこのような選択性が生まれる原因を構造学的に解析し(といっても AlphaFold を用いる理論的検討で、クライオ電顕のような方法は用いていない)、選択制を持つ化合物が特定のアミノ酸と水素結合を形成することで選択制が生まれることを示唆している。

下流のシグナルについても調べ、新しい化合物が mTORC2 という、インシュリン受容体下流の Akt 分子の活性化に関わる分子を通して GLUT4 トランスポーターを細胞膜にリクルートし、グルコース取り込みに関与することを明らかにしている。

あとは高脂肪食で肥満とインシュリン抵抗性を発生させたマウスに投与し、グルコーストレランスが著しく改善する一方、他の β2 受容体作動薬と異なり、長期に投与しても不整脈や新肥大を起こさないことを確認している。驚くのは、現在抗糖尿病として利用されている GLP-1 アゴニストと併用実験を行い、GLP-1 阻害薬により脂肪現象とともに起こる筋肉量の減少を完全に止めるどころか、上昇させることを示したことで、まさに完璧な糖尿病治療が可能になることを示している。

その上ですでに6ヶ月投与し続ける第1相試験も済ませており、最初心拍数の上昇を認めるが、これはすぐ正常化し、あとは安全に服用可能であることを述べているが、これについては臨床の雑誌に出てくるのだろう。

以上、糖尿病薬だけでなく、ボディービルダーにとっても安全な筋肉増強剤としても使われることは間違いない。また、GLP-1 アゴニストは筋肉減少を誘導するので高齢者には使えないが、この薬剤と併用するとこれが可能になるかもしれない。もちろんサルコペニアなどにも利用可能で、新しいブロックバスター誕生かもしれない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    高脂肪食で肥満とインシュリン抵抗性を発生させたマウスに投与し

    1:グルコーストレランスが著しく改善する一方、他のβ2受容体作動薬と異なり、長期に投与しても不整脈や新肥大を起こさない。
    2:驚くのは、現在抗糖尿病として利用されているGLP-1アゴニストと併用実験を行い筋肉量を上昇させる。
    Imp:
    完璧な糖尿病治療が可能になる

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