子宮頸癌がパピローマウィルスの感染によって引き起こされることを突き止め、ウイルスによる発ガンが人でも起こることを明らかにしたのはドイツのツア・ハウゼンだ。もちろん我が国でも高月、日沼らによってHTLV1によりATLが引き起こされることが明らかにされていたが、ノーベル賞に輝いたのはツア・ハウゼンだけだった。それはともかく、この発見が2006年のパピローマワクチンにつながっている。これまでの研究で、もちろんパピローマウィウルスが飛び込みやすいホットスポットがあり、近くの発ガン遺伝子を活性化したり、あるいはガン抑制遺伝子を不活化するため子宮頸癌の発症を助けることは明らかになっていたが、驚いたことにウィルスの挿入箇所についてまだ大規模ゲノム研究は行われていなかったようだ。当然と考えてしまうと、研究する気にならないのかもしれない。これにチャレンジしたのが、今日紹介する中国華中科技大学や北京ゲノム研究所を中心に多くの国が参加した論文で、Nature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは、「Genome wide profiling of HPV integration in cervical cancer identifies clustered genomic hot spots and a potential microhomology-mediated integration mechanism(子宮頸がんでのパピローマ挿入部位の全ゲノムに渡る解析により、挿入しやすいホットスポットと、遺伝子の微小相同性を使った挿入メカニズムを特定した)」だ。研究では、子宮頸癌及び前癌状態と考えられている子宮頸部異形症をそれぞれ104人、26人集め、全ゲノム配列を決定した上で、詳しくパピローマウィルス(HPV)の挿入部位を調べている。地道な仕事だが、読んでいくと確かに面白い。まず、子宮頸癌の81%に、異形症の53%のゲノムにHPVが組み込まれているが、組み込まれているHPVの数は圧倒的に子宮頸癌の方が多い。これまで疫学で子宮ガンの危険因子として知られたいた妊娠回数や、中絶経験の数などと、組み込まれたHPVの数などが相関している。さらに、これまでホットスポットとして知られていたように、発ガンに関わる遺伝子の近く、あるいは遺伝子内に組み込まれている。近くに飛び込んだ場合、ウィルスのプロモーターが働いて、遺伝子の発現が上がることが多く、一方内部に組み込まれたケースは遺伝子発現抑制に関わっていることが多い。これらの結果から、HPVは感染時にランダムにゲノムに飛び込むが、発ガンの過程で徐々に多くの遺伝子がHPVにより影響を受けた細胞がガンとして現れてくることがわかる。すなわち、HPVは原因になるが、エピジェネティックスも含め他の要因の関与も大きい。飛び込んだ方のHPVも、プロモーターなどの活性が保存されている細胞が選択されている。最後にHPVの組み込まれた部位の配列の解析から、HPV感染自体がゲノムの安定性を壊し、遺伝子の切れ目を作った上で、短い相同配列をうまく使ってゲノムに組み込まれている事も示している。この選択プロセスで何が起こっているのかを明らかにすることが今後の課題だろう。この点から言うと、このデータから異形症からガンに発展するという安易な結論を出しているが、いただけない気がする。実際異形症ではHPVの数はたかだか2個だが、ガンになると8−9個になっている。異形症が前癌状態だとすると、異形症で見られる2個はガンでの頻度は高いのではと思う。詳しく見ればもっと面白い結果が潜んでそうだ。最後に読み終わって、日本のATL患者さんのゲノム解析はどこまで進んでいるのか気になった。