今日の臨床研究紹介は3報の治験研究を取り上げる。
一番驚いたのがザールラント大学からの論文で、抗ヒスタミン点鼻薬が Covid-19 の感染を防げるという治験で、9月2日 JAMA Internal Medicine にオンライン出版された。タイトルは「Azelastine Nasal Spray for Prevention of SARS-CoV-2 Infections A Phase 2 Randomized Clinical Trial(アゼラスチン点鼻薬はSARS-CoV-2感染を予防する:第二相無作為化治験)」だ。
すでに感染した Covid-19 患者さんに鼻アレルギーに使われるアゼラスチン点鼻薬を使うと回復が早くなると言う研究はあったようだ。この研究では2023年7月から1年間、450人をリクルートして、片方はアゼラスチンが入っていない点鼻薬、もう片方にはアゼラスチン入りの点鼻薬を一日5回スプレーし、1週間に2回鼻のスワブを用いて SARS-CoV-2 感染を調べて感染への効果を調べている。
驚くべき結果で、偽薬群では最終的に6.7%の人が感染したが、アゼラスチン群では2.2%に抑えられた。さらに、感染してもアゼラスチン群では症状が軽い事も示されている。服用時にアゼラスチン群では頭痛一人と橋本病発症が一人見られたが、直接の副作用かはわからない。
以上が結果で、ヒスタミンをブロックすることで炎症などが抑えられ、鼻粘膜での感染を抑えていることだと思うが、だからといってマスクのようにこの薬を毎日5回点鼻していいのかは疑問だ。今後、感染が増えた状況で、外出時に点鼻を行った方法で効果が認められれば広がる可能性はある。
次はドイツミュンスター大学からの論文でハンチントン病に対して Sigma-1 受容体のアゴニストが一定の効果があることを示した治験で、9月5日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Pridopidine in early-stage manifest Huntington’s disease: a phase 3 trial(ハンチントン病の初期症状に対するプリドピディン治療:第三相治験)」だ。
Sigma-1 受容体 (S1R) は小胞体ストレスを抑える一種の分子シャペロンで、これを活性化することで様々な神経変性性疾患の進行を遅らせられるのではと治験が進んでいる。この研究では症状が出始めたハンチントン病に処方して進行を遅らせられるか調べている。
ハンチントン病の患者さんは不随運動を抑えるため、ドーパミン神経を抑える治療が行われているが、この治験ではこの治療をやめてPridopidineの効果を調べている。
結果だが、Total functional capacity (TFC9) と nified Huntington’s Disease Rating Scale (UHDR) で評価しているが、TFCでは明確な効果を認めていない。しかし、UHDRではこれを評価する様々な項目で症状の悪化が抑えられ、認知機能や運動機能では78週までほとんど機能の低下が認められない。
副作用については92%の人が最後まで服用を続けており、重大なものはないと言えるので、この第三相治験の結果をベースに、おそらく認可されるのではないだろうか。
最後はオランダエラスムス大学からの論文で、再発乳ガンの治療選択に、これまでのようにエストロジェン受容体を標的にする治療を最初に持ってくるか、あるいは現在ではホルモン治療の次に使われる CDK4/6 阻害剤を最初に持ってくるかを調べた治験で、9月4日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Early versus deferred use of CDK4/6 inhibitors in advanced breast cancer: circulating tumor DNA analysis of a randomized phase 3 trial(進行した乳ガンにCDK4/6阻害剤を早期に使った方がいいか、遅らせた方がいいか:血中DNA検査も加えた無作為化三相治験)」だ。
エストロゲン受容体陽性乳ガンはほとんどアロマターゼ阻害剤でエストロジェンを断つ治療が行われるが、これがうまくいかない場合エストロジェン受容体を分解するフルベストランで、ホルモンを標的にする治療かCDK4/6阻害剤で細胞周期を抑える治療が行われる。
この研究では無作為化してまずフルベストラン、あるいはCDK4/6阻害剤で始める方法で経過を見ている。何も層別化しない場合、統計的有意差は見られないが、患者さんの末梢血のDNAから染色体異常が検出されるグループを抜き出して比べると、明らかに最初にCDK4/6阻害剤を使った方が効果が高い。
以上の結果から、進行性乳ガンの場合血中のガンDNA検査を行って治療薬を選ぶことが今後の重要なプロトコルにすべきであることを示している。
Sigma-1受容体(S1R)は小胞体ストレスを抑える一種の分子シャペロンで、これを活性化することで様々な神経変性性疾患の進行を遅らせられるのではと治験が進んでいる。
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