制御性T細胞(Treg)の多様な機能についてはずいぶん紹介してきたが、今日紹介するスローンケッタリングガン研究所からの論文は、Treg が我々のストレス反応を制御するためになんとうまくできているのだろうと感心させられる研究で、9月5日 Science Immunology に掲載された。タイトルは「Enkephalin-producing regulatory T cells in the skin restrain local inflammation through control of nociception(皮膚でエンケファリンを産生する制御性T細胞は局所炎症を痛みを抑えて制御する)」だ。
要するにTregが皮膚で痛みを抑える働きをしているという驚くべき話だが、この論文を読んで今年の4月に、雌マウスだけで髄膜に存在する Treg が脳で直接神経に働きかけて痛みを抑えていることを示すもう一つの論文が発表されていることを知った(Midavaine et al., Science 388, 96–104 (2025))。
おそらく Treg が神経に直接働く可能性について研究が行われていたのだろう。この研究でも最初から皮膚の Foxp3 を発現する Treg が神経の近くに存在することを示すところから始めている。そのあと、全身で Treg 特異的にジフテリアトキシンで殺す操作を行い、Treg を急性に除去すると、皮膚の痛み刺激に対する反応が高まること、またその反応を脊髄後根の感覚神経の興奮として検出できることを示している。髄膜と異なり、オスメスの差はほとんど無い。
Midavaine の論文でも扱われているが、一部の Treg は麻薬物質であるエンケファリンを合成することも知られていた。この研究では最初から Treg のエンケファリンに着目し、データベースサーチや、プロエンケファリン遺伝子発現細胞のラベリング実験から、一部の Treg が確かに痛みを抑えるエンケファリンを産生していることを明らかにしている。
そして、プロエンケファリン遺伝子を Treg 特異的にノックアウトする実験から、Treg が産生するエンケファリンが後根感覚神経の興奮を直接抑えていることを示している。ただ、全ての Treg がエンケファリンを発現するわけではなく、皮膚では半分ぐらいの細胞で発現が見られるが、リンパ節や血液では全く見られない。
以上のことから、皮膚では Treg がエンケファリンを発現しやすい環境ができていることになる。そこで試験管内の刺激実験から、Treg がエンケファリンを発現する条件を調べていくと、抗原受容体を介する刺激とともに、グルココルチコイドの刺激が必要であることがわかる。グルココルチコイドはストレスホルモンだが、皮膚ケラチノサイトでも合成が見られる。以上のことから、ストレス反応が揃うと、Treg はエンケファリンを発現するようになり、本来の抗炎症性作用に加えて、直接感覚神経に働いて痛みを抑えている。さらに、Treg は神経細胞から分泌されるケモカインに対する受容体も持っており、これにより神経端末に引き寄せられることもわかった。
重要なのはエンケファリンが痛みを取るだけではない点で、プロエンケファリンが発現できないと炎症が高まる。これは神経興奮が痛みだけでなく、様々な炎症メディエータを介して炎症を亢進させるサイクルに組み込まれている事を意味する。
以上が結果で、Treg の機能の多様性が広がるのも驚きだが、全て炎症を抑える方向に向いているのも感心する。そして皮膚炎症に対してデキサメサゾンを塗るのは、炎症を抑えるだけでなく Treg のエンケファリン産生を高めている効果もあるのかと、新しい勉強ができた気分だ。
ストレス反応が揃うと、Tregはエンケファリンを発現するようになり、本来の抗炎症性作用に加えて、直接感覚神経に働いて痛みを抑えている。
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抗炎症作用だけでなく、鎮痛作用もあったとは!