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9月23日 IL-2バリアントでPD1陽性細胞特異的に刺激する(9月17日 Science Translational Medicine掲載論文)

2025年9月23日
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昨日、メラノーマに対する個人用ワクチンの論文を紹介して感じたのは、メラノーマのように腫瘍特異的ネオ抗原が見つけやすい腫瘍でCTLA4局所投与まで組み合わせて最強免疫を行っても、効果がないケースがある点だ。特に、腫瘍組織で制御性T細胞が増加するのを完全にコントロールできず、その結果免疫がうまく続かないケースが出てくる。

これを解決する一つの方法として思いつくのは、IL-2Rαに結合せず、IL-2Rβ/IL-2Rγに結合して、制御性T細胞の増殖を抑えるIL-2バリアントやIL-15を免疫に組み込む可能性だ。このようなL-2Rβ/IL-2Rγ特異的アゴニストはこのブログで紹介してきたが、これと様々な抗体をハイブリッドにして、抗原で刺激されたエフェクター細胞だけを増殖させる方法が数多く開発され、現在治験が行われている。

その一つがRocheの開発したPD1にIL-2バリアンとを結合したPD1-IL2vで、今日紹介するバーゼル大学からの論文は患者さんの腫瘍内に存在するリンパ球を刺激して、PD1-IL2vがガン抗原で刺激され、PD1を発現した細胞を特異的にキラー細胞へと分化させるとともに、その細胞の増殖も促すことで抗ガン作用を高められる可能性を示した研究で、9月17日 Science Translational Medicine に掲載されている。タイトルは「PD-1–targeted cis-delivery of an IL-2 variant induces a multifaceted antitumoral T cell response in human lung cancer(PD-1を標的にIL-2バリアントで刺激すると人間の肺ガンでの多角的な抗腫瘍免疫を誘導できる)」だ。

PD1-IL2vは現在固形ガンでの治験が行われており、この研究は効果のメカニズムをより明確にするための研究と言える。

最初は卵巣ガンと末梢血の共培養、あるいは腫瘍組織から採取したT細胞と卵巣ガンの共培養に、PD1-IL2vを加えることで、それぞれ単独よりは強い抗ガン活性を持ったT細胞が誘導できることを示している。

PD1を標的にする理由だが、T細胞は抗原刺激を受けるとPD1を強く発現し、PD-L1による抑制作用を受けるようになる。このおかげで免疫反応が続くのを抑えることができるが、ガンのように免疫が持続して欲しいときは邪魔になる。そこで、本庶先生のPD1に対する抗体でPD-L1の作用を受けないようにすると、免疫が持続する。昨日のワクチン接種でも、PD1抗体やCTLA4抗体を併用することで、免疫の持続時間を高め、記憶細胞を誘導することができることから、ワクチン治療には必須のツールと考えられる。

この研究では抗原刺激を受けた時に発現するPD1を標的にしてPD1-IL2vを加えると、抗原刺激を受けた細胞を直接刺激して、PD1抗体でT細胞の疲弊 (exhaustion:Tex) を抑制した以上の効果が得られると期待している。

実験の詳細は省くが、腫瘍内で免疫刺激を受けたT細胞をPD1-IL2vとガン抗原で刺激することで、疲弊したTexの数が低下し、キラー活性の強いエフェクターへと分化するだけでなく、この細胞の増殖も誘導され、エフェクター機能を促進することができる。発現している転写因子を詳しく見ると、この刺激でTexのプログラムがエピジェネティックにリプログラムされ、長続きする免疫が維持されることがわかる。このリプログラミングにより、全身を移動するためのケモカイン受容体を発現したT細胞も出現し、全身でのガンサーべーランスが行われるようになる。

もちろんCD8キラー細胞だけでなく、CD4細胞もインターフェロンを強く発現するTH1型と呼ばれるT細胞が誘導され、キラー細胞を助けるだけでなく、それ自身で強い抗腫瘍作用を示すようになる。

以上が結果で、予想通り、あるいは予想以上の抗腫瘍効果が理論上得られるという話になる。あとは治験の結果待ちだが、ワクチン接種とも間違いなく相性がいいはずで、免疫時に刺激することで、ワクチンに反応したT細胞をエフェクターとして維持し、増殖させることができる。抗体が同じなのでチェックポイント治療と併用は難しいが、チェックポイント抑制よりは多角的な効果が期待できるため、より効果的な免疫増強が可能になる気がする。このように、ガン免疫を高める方法の開発は着々進んでいる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:ワクチン接種とも間違いなく相性がいいはず
    2:免疫時に刺激することで、ワクチンに反応したT細胞をエフェクターとして維持し、増殖させることができる。
    3:チェックポイント単独抑制よりは多角的な効果が期待できるため、より効果的な免疫増強が可能になるのでは!
    Imp:
    ガンワクチン接種→生体内腫瘍抗原特異的T細胞up+抗原スプレティングup→サイトカイン+ICIでTME微調整→抗腫瘍効果up
    (免疫が惹起されない患者さんには、免疫ブースターとしてCAR-T/TCR-Tを投与)
    治療プロトコール骨格が次第に姿を現しはじめた!

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