世界陸上で活躍している投てき種目の選手からわかるように、肥満を一概に身体に悪いと片付けることが間違っていることがわかる。すなわち、良い肥満と悪い肥満が間違いなくあると言うことだが、これをどう区別するかは臨床的にも重要だ。例えばメタボ診断で現在使われる腹囲は、内臓脂肪の蓄積が悪い肥満に近いことを示した阪大の松澤先生たちの仕事に由来する。
今日紹介するマウントサイナイ医大からの論文は、UKバイオバンクのゲノムデータをもとに、良い肥満と悪い肥満を遺伝的に区別する可能性にチャレンジした研究で、9月12日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic subtyping of obesity reveals biological insights into the uncoupling of adiposity from its cardiometabolic comorbidities(肥満を遺伝的に分類し直すことで肥満を心臓病・代謝病から切り離すための生物学的背景を明らかにする)」だ。
肥満はゲノム研究が最も進んだ領域で、肥満に連関する遺伝子の数は1000を超える。この研究では肥満に関わる形質 (BMI) 、脂肪量、腰/ヒップ比と心臓病・代謝病に関わる形質(例えばLDL、A1c)などをペアにした形質を24種類設定し、GWASによる遺伝的相関を調べ、最終的に266種類の相関する多型を特定している。
次に、それぞれの遺伝子多型をもとに、肥満と心臓病・代謝病が切り離されている程度の指標GRSuncopling (GRSuc) を開発し、これと脂肪量指標 GRSbfp を加えて肥満を分類している。結果だが、GRSuncoupling が高いほど、LDL-C、コレステロール、トライグリセリド、A1c など心臓血管疾患に繋がる代謝指標が低く、健康であることがわかる。また、指標に貢献する遺伝子を見ると、これまで心臓代謝疾患を防ぐとされている遺伝子が含まれていることがわかる。
このように肥満と心臓代謝疾患を区別する遺伝子多型を用いると、8種類の肥満のタイプを区別することができ、全てのグループで脂肪量は高いものの、例えばウェスト/ヒップ比とを完全に分離することができるし、脂肪やコレステロールの指標とも分離できることがわかる。おそらく私は5型に入り、肥満でウェスト・ヒップ比が高く、血糖やA1cが糖尿病型だが、脂質代謝は正常といった具合だ。
このようにウェスト/ヒップ比を脂肪量から切り離せることは、どこに脂肪がつくかということが良い肥満と悪い肥満を区別するとする松澤先生たちの結果とともに、この遺伝的背景を特定できることを示している。そして、さらに簡単に臨床分類できるよう、それぞれのタイプに代表的な遺伝子もリストしている。ただ、良い肥満だと行って安心はできない。体重が増えることで起こる病気は確かにあり、例えば蜂窩織炎、変形性関節症、静脈瘤にかかりやすくなるのでご注意。
このように遺伝的に良い肥満と悪い肥満を区別できるようになると、成長期から個人を分類できるため、この差が既に子供の時から検出できることを示している。従って、悪い肥満と診断されたら早くから生活を改めることが重要になる。
この研究で面白かったのは、GRSuncoupling に関わる遺伝子のほとんどは身体の形成や維持に関わる遺伝子で、ほとんど神経系の関与がない一方、一般的脂肪量と強く相関するほとんどの遺伝子が脳の発達や維持に関わる遺伝子である点だ。要するに習慣や好みといった脳活動が肥満を決めており、これ自体は努力でなんとかなるという点だ。もちろん、悪い肥満に繋がる遺伝子といえども、生活上の注意で多くに対応できるはずで、その意味で今回開発された良い肥満と悪い肥満についての遺伝子診断は重要になると思う。といっても、私の年になるともう手遅れだが。
1ウェスト/ヒップ比を脂肪量から切り離せることは、どこに脂肪がつくかということが良い肥満と悪い肥満を区別するとする松澤先生たちの結果とともに、この遺伝的背景を特定できることを示している!
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リンゴ型肥満は本当にいけません。