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9月29日 線虫ではダイエットが子孫の長寿につながる:風が吹いたら桶屋が儲かる?(9月26日 Science 掲載論文)

2025年9月29日
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長寿の研究での線虫の貢献は大きい。寿命が20日ぐらいと短く、寿命自体を形質として研究しやすい。その結果ダイエットが長寿の秘訣であること、一般の人の注目が高いサーチュインと寿命の関係などは線虫で明らかにされた。

前者は代謝、後者はエピジェネティックスと寿命の関係を明らかにした研究だが、今日紹介するベーラー医科大学からの論文は、代謝とエピジェネティックスが、「風が吹いたら桶屋が儲かる」で語られるような複雑な経路を経て子孫の寿命を伸ばせることを示した研究で、9月25日 Science に掲載された。タイトルは「Lysosomes signal through the epigenome to regulate longevity across generations(リソゾームのシグナルはエピゲノムを通して世代を超えて寿命を調節する)」だ。

食制限により線虫の寿命が延びることがわかっており、基本的には全身の細胞の代謝の問題だが、食制限に対する最初の組織反応は消化管上皮でのリソゾーム局在リパーゼ様タンパク質4 (LL4) が誘導され、これも寿命に関わるAMPKやmTORを抑制して長寿に貢献することがこれまでの仕事で知られている。この研究は食制限の代わりに、腸管でLL4が過剰発現する線虫を作成し、その子孫を見ていくと、導入遺伝子を持っていない子孫線虫も寿命が延びることを発見している。即ち、腸に発現したLL4によって子孫の遺伝子のエピゲノムが変化し長寿になるという予想外の現象が起こった。

子孫線虫に伝わるエピジェネティック現象なので、まずLL4により腸管で起こるエピジェネティック調節分子の発現と、その子孫寿命への効果を調べ、LL4によりヒストンバリアントの一つ his71 が腸管で誘導されることが、子孫の寿命を延ばすことを発見する。しかし腸管で起こった変化が子孫に伝わるためには、生殖細胞へとこの変化が伝わる必要がある。そこで、腸管で作られる his71 をラベルして生殖細胞への移行がないかを調べ、期待通り腸管から生殖細胞へ腸管のリポプロテインによって伝達されることがわかった。即ち、腸管で発生したヒストンバリアントが生殖細胞まで伝達され、生殖細胞のエピゲノムを変化させることがわかった。この時、生殖細胞だけで働いているメチル化酵素 Dot1.3 により his71 ヒストンバリアントのK79がメチル化され、これが長寿に関わる遺伝子のエピジェネティックスを変化させ、子孫の寿命を延ばしている。

最後に、腸管上皮でLL4、更には食制限で his71 が誘導される分子メカニズムについて詳しく解析し、Rasファミリー分子によりAMPKがリソゾームにリクルートされ、mTORシグナルを抑制しこれが細胞レベルの長寿を誘導するとともに、SNK-1転写因子依存的にhis71を誘導することも明らかになった。また腸管上皮自体でLL4が活性化されるだけでも、個体の寿命は少し延びることを明らかにし、全身の代謝に先駆けて腸上皮の飢餓への適応が長寿をもたらすことも示している。

結果は以上で、飢餓によりLL4が発現し、腸上皮を介する長寿に貢献するとともに、転写されてくるヒストンバリアントを生殖細胞に伝えることで、次世代の長寿をエピジェネティックな機構を介して実現するという、ややこしい回路だがなかなかよくできたシステムができている。これが他の動物でも起こる可能性があるのかどうかは全くわからないが、飢餓に対する極めて合目的な対応だと感心した。

  1. okazaki yoshihisa より:

    飢餓によりLL4が発現し、腸上皮を介する長寿に貢献するとともに、転写されてくるヒストンバリアントを生殖細胞に伝えることで、次世代の長寿をエピジェネティックな機構を介して実現する!
    Imp:
    なんと!
    腸上皮が飢餓を感知しエピジェネ機構で子孫を長寿にするとは!

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