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10月4日 システインを食べると小腸の幹細胞増殖能力が高まる(10月1日 Nature オンライン掲載論文)

2025年10月4日
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腸上皮幹細胞がγδT細胞、上皮内T細胞、あるいは自然免疫に関わるILC等から分泌されるIL-22等のサイトカインによって調節を受けていることはよく知られた事実で、このメカニズムを強めることは腸管の再生力を高め、ひいては抗老化にもつながると考えられる。

今日紹介するMITからの論文は、システインの豊富な食事、あるいはシステインを摂取するだけで、特に上皮内CD8T細胞と上皮幹細胞 (ISC) の相互作用を通してISCの再生能力を高めることを示した研究で、10月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dietary cysteine enhances intestinal stemness via CD8 + T cell-derived IL-22(食事中のシステインはCD8T細胞由来IL-22を介して腸幹細胞の幹細胞能力を高める)」だ。

おそらくこのグループは腸管幹細胞のケトン合成酵素が食事により変化する現象に焦点を当てて研究していたように思う。ケトン体は当然幹細胞性活性を高めるので、ISCのケトン体合成に関わるHMGC2発現に影響するアミノ酸を一つづつ摂取させて調べた結果、システインが最も高いHMGC2誘導効果を示すことを発見した。種明かしをしてしまうと、最終的にシステインはHMGC2とは別の経路でISCを活性することがわかるのだが、システインを多く摂取させると幹細胞の増殖が高まり、放射線障害に対しても回復が早いことを発見する。

なぜシステイン摂取でISCの増殖力が上がるのか探索するうちに、システインを摂取したマウスでは腸管上皮のCD8T細胞の数が増加していることに気づく。とすると、ISCの増殖はCD8T細胞から分泌されるIL-22によって誘導されている可能性が浮上した。そこでT細胞の存在しないRAGノックアウトマウスにシステイン食を摂取させISC増殖を調べると、全く増殖が起こっていないことがわかり、CD8T細胞を介してISCが増殖していることを確認している。

次に、IL-22がシステイン食によるISC増殖のメインの要因かどうかIL-22ノックアウトマウスを用いて調べ、ノックアウトマウスではシステイン食のISCへの効果は全くないが、CD8T細胞の増加は見られることを発見する。即ち、システインによりCD8T細胞は増殖するが、IL-22ができないとCD8T細胞が増えても、ISCには何も起こらないことが明らかになった。

ではシステイン摂取によるCD8T細胞の増殖はどのようなメカニズムで誘導されるのか?アミノ酸は細胞内にトランスポーターを通じて吸収されるが、システインのトランスポーターは小腸の上皮に強く発現しているが大腸上皮や他の細胞では発現が低い。システイン摂取後の代謝物の動向を調べると小腸で代謝物が生成していることがわかり、システインはまず小腸の上皮に吸収されると考えられる。中でもCoenzymeA (CoA) はシステイン摂取に依存しており、これが上皮内で増殖することが最初の引き金になっている可能性が高い。そこで、CoAを直接摂取させると、システイン摂取とほぼ同じT細胞増加IL-22分泌、そしてISC増殖が見られることが予想通り確認された。

以上が結果で、なぜCoAが上皮で上昇するとT細胞が増加するのかについてははっきりしないが、CoAが直接CD8T細胞に作用するという話もあり、このようなメカニズムでT細胞が増殖し、IL-22を分泌することで、ISCの再生力を高めていることになる。とすると、システインは腸の幹細胞システム維持の重要なサプリメントになる可能性もあり、アンチエージング効果も期待できるかもしれない。もちろんガンの増殖を促す心配はあるが、直腸にはほとんど作用しないので、システインの抗酸化作用も合わせてサプリとして使われるような気がする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    T細胞が増殖し、IL-22を分泌することで、ISCの再生力を高めている!
    Imp:
    システインは腸の幹細胞システム維持の重要なサプリメントになる可能性もあり、アンチエージング効果も期待できるかも!?

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