コロナパンデミックの時、ウイルス感染から免疫刺激まで、多くの細胞膜上でのプロセスがメディアを通して、一般の人にも共有された。例えばスパイクタンパク質や、ACE2受容体など専門的な用語が広く知られることとなった。このように、細胞膜上での様々なプロセスは、それに関わる特異的膜タンパク質の相互作用に基づいて語ることが多いが、実際の細胞膜上のイベントは細胞膜の流動性に大きく依存している。この流動性に関わるのが細胞膜内に含まれるコレステロールで、これが膜タンパク質のシグナルを様々な方法で変化させている。
今日紹介するUCLAからの論文はこの細胞膜(PM)から小胞体(ER)へのコレステロール輸送に関わるAster-A分子をノックアウトしたマウスで腸からの脂肪吸収が低下し体重が減少する原因を探った研究で10月9日号のScienceに掲載された。タイトルは「T cell cholesterol transport links intestinal immune responses to dietary lipid absorption(T細胞のコレステロール移送は腸内免疫とリンクして脂質吸収反応を調節する)」だ。
この研究ではAster-A(AA)をノックアウトすると腸からの脂質吸収が低下し痩せるという現象の原因を探ることから始めている。腸上皮や肝臓など脂質吸収に関わる細胞特異的にノックアウトしても異常は起こらないのに、なんとT細胞でノックアウトすると全身でノックアウトしたのと同じ形質が現れる。すなわち、T細胞のコレステロール移送が変化すると、腸での脂質吸収が低下して痩せることがわかった。
T細胞なので、当然腸内での免疫反応が変化し、その結果脂質吸収が低下すると考えられるが、期待通り腸内でのTh17細胞が活性化し、IL-22が強く分泌されることで、腸内での脂肪吸収が抑えられる。また、Th17活性化は細菌叢の働きによることもわかった。
実際、Th17に関わらずT細胞を刺激するとAAがERから細胞膜へと移行する。ERはTMと連結してカルシウムリザバーとして働いているが、T細胞刺激でTMへリクルートされたAAはT細胞とカルシウムチャンネルにコレステロールが蓄積して膜上で刺激が続くのを、コレステロールを取り除くことで抑える働きがあることを生化学的に示している。即ち、AAが欠損すると、コレステロールが活性化されたT細胞受容体やカルシウムチャンネルに蓄積し、刺激が持続してしまう。
この過程が細菌叢から刺激を受ける腸内のTh17で最も著明に現れた結果、腸内の炎症が起こり、そこで分泌されるIL-22により腸内上皮での脂質吸収が抑えられるというシナリオだ。
以上が結果で、T細胞の脂質代謝の変化が全身に及ぶという面白い現象だが、突き詰めていくと炎症による影響に落ち着いた。ただ、膜タンパク質の活性を調節するためには、複雑な脂質代謝が景にあることがよくわかる論文だ。
T細胞のコレステロール移送が変化すると、腸での脂質吸収が低下して痩せる!
imp.
不思議な人体の因果応報!