加齢黄斑変性症でも geographical atrophy と呼ばれる進行型になり中心窩が傷害されると視力が急速に低下する。この段階になると新生血管を抑制する治療の効果はなく、再生医療などが残された方法として考えられるが、もう一つの方向は電子センサーにより光を電気パルスに変換して網膜の残った細胞に画像を伝える方法だ。ただ解像度や大きさの問題などから決め手になる方法にはなっていない。
これに対しスタンフォード大学のグループは、光を電気パルスに変えるダイオード ( eye chip) を網膜に埋め込み、これにビデオカメラを通して得られた像を直接投射し、ここで生まれる電気パルスを残っている細胞(主に双極細胞を考えている。)に処理させて画像認識を再構築する方法を考案し、2012年 Nature Photonics に発表していた(Nature Photonics Vol 6, 391, 2012)。
この時から10年、今日紹介するボン大学を中心とする国際治験グループからの論文は、38人の患者さんへ eye chip の移植手術を行い、大きな視力回復が得られたことを報告する研究で、10月20日 The New England Journal of Medicine に掲載された。タイトルは「Subretinal Photovoltaic Implant to Restore Vision in Geographic Atrophy Due to AMD(網膜下の光電インプラントは加齢黄斑変性症の geographic atrophy 患者さんの視力を回復できる)」だ。
この方法は自然光の代わりに光電ダイオードに感知しやすい赤外線に変えてダイオードに投射し、これを画像として感知して貰うようできている。従って、熱が発生しない領域を用いて画像を投射している。
画像はまずめがねに装着したカメラで取り込み、それを赤外線に変換するが、患者さん自身でズームをかけたりピントを合わせられるようになっており、基本的には文字を読むためのめがねといった感じで使われる。人工網膜は 2mm 四方で 30μM の大きさしかないが378画素が搭載されており、文字を読んだりするには十分だ。
評価については、1年後十分残りの神経細胞が eye chip からのシグナルを処理できるようになってから行っており、おそらく予想を超える結果になったのだと思う。まず、カメラ付きめがねをかけない自然視力は全く元のままだが、これは当然のことだ。
しかし、特に文字を読むときには、大きな改善が見られることを示しており、実際 0.1mm の小さなさも検出できている。専門的な logMAR という指標で0.5の改善ということは、ほとんど日常の読み書きには不自由しないというレベルの改善といえる。また、患者さんは1年たつと機械になれ、用途に合わせてzoomしたり、ピントを合わせたりして使いこなすようになる。
もちろん手術なので、様々な副作用もある。一番多いのは眼圧の上昇で、次に網膜の断裂等などが続く。しかし95%は2ヶ月以内に症状は消え、最終的に38人中32人が1年目の検査まで到達している。
以上が結果で、最終的には3年までフォローが行われるのでその結果がまた報告されるだろう。今後再生医療との厳密な比較が行われていくと思うが、おそらくコストで言うと今のところは eychip に軍配が上がるのではないだろうか。

特に文字を読むときには、大きな改善が見られることを示しており、実際 0.1mm の小さなさも検出できている!
imp.
バイオニック医療の前進!
今後の経過が楽しみ。