あらゆる分野の論文を乱読していると、「ここまでわかっていたのか」と感心する一方、「こんなこともわかっていなかったのか」と驚くこともしばしばだ。今日紹介するメリーランド大学からの論文は、加齢黄斑変性症の発症過程についての新説で、アメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Identification of hydroxyapatite sperules provides new insight into subretinal pigment epithelial deposit formation in the aging eye(ハイドロオキシアパタイトの特定から生まれる、加齢に伴う目の色素上皮でおこる沈着物の形成に新しい考え)」だ。もともと加齢黄斑変性症は網膜色素上皮下に老廃物が沈着して起こると考えられてきたが、発症初期過程の解析はあまり行われず、加齢という言葉でおしまいにしていた。「どうしてこんなこともわかっていなかったのか?」と感じたと言ったが、この研究自体はかなり古典的で、特に変わった方法も使わずこの初期過程に焦点を当て解析している。このグループは色素上皮下に蓄積される沈着物の成因に興味を持っていたようだ。屍体から眼球を集め沈着物共通の物質がないかX線回折を用いて分析を進めるうち、不溶性のリン酸カルシウムであるハイドロオキシアパタイトを特定した。この発見が研究の全てで、あとはこれが黄斑変性症などにすすむ可能性を追求しているだけだ。まずこのハイドロオキシアパタイトは網膜色素上皮と脈絡膜の間に形成される。おそらくなんらかの原因で微小ではあってもリン酸カルシウムの結晶がまず形成される。次にこれが核となって、コレステロール、アミロイド、ヴィトロネクチン、補体因子などの分子が集まり沈着物を作る。もちろん同じ沈着物は黄斑部にも存在するため、おそらく変性症のトリガーになるだろうと推察している。残念ながら、実際の黄斑変性症でこのような構造がどのように存在しているのか、浸出型や萎縮型といった病系との関わりなどは全く示されていない。今後、実際の病眼を用いた研究が必要だろう。しかしこんな結晶が本当に存在するなら、早期診断も可能なはずだ。単純な発想と、古典的な方法で明らかになってきた現象は、臨床応用も簡単だと思う。ぜひ加齢黄斑変性症を防ぐという方向に研究が進んでくれることを期待する。
西川先生、
低分子アプローチを考えております。
私も適齢期ですので期待しております。