糖尿病性網膜炎は失明に至る重要な病気で、毛細血管周囲に接して血管を保護するペリサイトが血管から離れ、バリア機能が傷害されることが重要な引き金になっている。これに続いて微小血管新生が起こることから、VEGFに対する抗体での治療が行われているが、初期病変を抑えることができないため、効果が限定されている。
今日紹介する University College London からの論文は、ひょっとしたら糖尿病性網膜症発症予防のブレークスルーになるかもしれない研究で、マウス糖尿病モデルでのペリサイト遊離を防ぐことに成功している。タイトルは「Leucine-rich α-2-glycoprotein 1 initiates the onset of diabetic retinopathy in mice(Leucine rich α-2-glycoprotein1はマウス糖尿病性網膜症の最初の引き金を引く)」で、10月22日号 Science Translational Medicine に掲載された。
Leucine-rich α-2-glycoprotein1 (LRG1) は新しい炎症マーカーとして注目されているが、糖尿病でも上昇する事が知られていたようだ。この研究では最初から LRG1 の糖尿病性網膜症での役割に焦点を定めており、様々な糖尿病も出るマウスで高血糖が何ヶ月も続いた網膜で LRG1 の発現を調べ、糖尿病網膜症の明確な病理変化が出る前に血管内皮の LRG1 発現が上昇することを発見した。そして、この誘導が高血糖が続くことによる細胞の NFkB をメインのシグナルとする炎症性変化の結果である事を明らかにした。
つぎに LRG1 の機能を確かめるために、LRG1 ノックアウトマウスに糖尿病を誘導し、血管変化を調べると、正常マウスで起こる血管変化が全く起こらないことを発見する。病理学的には、ペリサイトの脱落がほぼ完全に防げていることを確認する。その結果、網膜神経も正常に働ける。
以上の結果は LRG1 がペリサイトに働き血管からの脱落を誘導することを示唆する。そこで培養したペリサイトに LRG1 を添加する実験を行い、LRG1 がペリサイトをより線維芽細胞に近い性質へとリプログラムし、またペリサイトの収縮を誘導することを突き止める。また、この背景にペリサイトで誘導される SNAIL 分子が関わり、またシグナルとしては TGFβ 刺激と同じシグナル経路を介していることを示している。
最後に、ノックアウトマウスではなく、LRG1 を阻害する抗体により糖尿病性網膜症の発症を抑制できるか、糖尿病を誘発したマウスの眼球に LRG1 抑制抗体を投与する実験を行い、局所的 LRG1 抑制で十分ペリサイト異常を防ぎ、糖尿病性網膜症の発症を防止できることを示している。
以上が結果で、網膜だけでなく腎臓など他の血管での機能を知りたいところだが、網膜症状だけでもスイッチが入るのを止めることができることを示せたのは、大きなブレークスルーになるのではと期待する。
 
 

局所的 LRG1 抑制で十分ペリサイト異常を防ぎ、糖尿病性網膜症の発症を防止できることを示している!
Imp:
LRG1 がペリサイトをより線維芽細胞に近い性質へとリプログラムし、またペリサイトの収縮を誘導する.
ついに、糖尿病性網膜症防止が可能に?