AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月5日 脳内ステロイドホルモンによる神経伝達状態の変化(10月29日 Nature オンライン掲載論文)

11月5日 脳内ステロイドホルモンによる神経伝達状態の変化(10月29日 Nature オンライン掲載論文)

2025年11月5日
SNSシェア

神経伝達に関わるイオンチャンネルは伝達因子によるチャンネルのコンダクタンスを変化させることで、興奮をファインチューニングできることが知られている。特に、神経活動の最も重要な NMDAR (グルタミン酸受容体)は自然に存在する神経ステロイドが結合することでコンダクタンスを変化させることが知られている。

今日紹介する米国コールドスプリングハーバー研究所からの論文は、NMDAR が神経ステロイドや化合物でコンダクタンスを変化させる構造学的基盤をクライオ電顕を用いて明らかにした研究で、10月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mechanism of conductance control and neurosteroid binding in NMDA receptors(NMDA受容体への神経ステロイド結合とコンダクタンス調節のメカニズム)」だ。

NMDAR のコンダクタンスを変えられるなら記憶増強に使えるのではという下心で論文を読んでみた。研究ではまず NMDAR 一分子の興奮レコーディングを用いて、硫酸プレグネノロン (PS) 、24S-ヒドロコルチゾン (24SHC) 、そして化合物EU1622の作用を調べている。

いずれも興奮性とされている神経ステロイドで、NMDAR 刺激時に加えるとイオンの流入を増強する。面白いのはそれぞれの作用が異なる点で、PS と 24SHC は流入による電位の振幅は両者で同じだが、スパイク頻度が上昇している。一方、EU1622 を加えると、スパイク頻度はさらに増強するのだが、振幅は小さくなる。

以上のように、同じ NMDAR の特性を細胞内からこれだけ変化させられるということは、素人目にはかなり期待できるように思える。この研究では、この変化の構造学的基盤をクライオ電顕で調べている。

まずそれぞれのステロイドは NMDAR膜直下にあるドメインのポケットに結合すること、ステロイドとNMDAR の結合はステロイドごとに全く異なっており、これによりチャンネルの孔の大きさが変化することを明らかにしている。さらに、NMDAR がそれぞれのステロイドと結合する部位に変異を入れてステロイドの作用を調べることで、構造学的な結果を遺伝的に確認している。後は、興奮を促進するが振幅が低下した EU1622 結合による構造変化を 24SHC による変化と比べている。

詳細はすっ飛ばして結論を述べると、

  • NMDAR は GluN1a と GluN2Bサブユニットから形成されているが、24SHC が結合するとチャンネル孔を形成している両方の分子の M3ユニットが外側に倒れて、安定的に最も大きな穴が形成される。
  • これに対して EU1622 と結合した NMDAR では GluN2B のM3ユニットだけが外側に倒れるため、穴の大きさが中程度でとどまる。

即ち、ステロイドの結合で、チャンネル孔のサイズを安定的に変化する構造的基盤が明らかになり、それが実際のチャンネル特性として表現されることがわかった。

結果は以上だが、今後構造に基づいて化合物を設計することで、NMDAR の興奮特性を様々に変化させられる薬剤開発に道を開いたと思う。最近ではペプチドを設計してチャンネルを変化させる試みも進んでいることから、重要な領域になると思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ステロイドの結合で、チャンネル孔のサイズを安定的に変化する構造的基盤が明らかになり、それが実際のチャンネル特性として表現されることがわかった。
    Imp:
    ペプチドを設計してチャンネルを変化させる試みも進んでいる!
    生命を設計する時代!

    『De novo design of a peptide modulator to reverse sodium channel dysfunction linked to cardiac arrhythmias and epilepsy』
    Cell October 30, 2025

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。