川崎病やギランバレー症候群などの自己免疫性炎症に健康人から精製した免疫グロブリンを大量に注入する治療が標準治療として行われる。FDAでは80を超す自己免疫病で効果的と認めている。ただ、1回の点滴注射で1-2g/Kgと大量の免疫グロブリンが必要で、1回に4万円近いコストだけでなく、供給の問題も大きい。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、ガンマグロブリンが炎症を抑えるメカニズムを詳細に調べて、将来リコンビナント製剤を可能にするための条件を調べた研究で、11月6日 Science に掲載された。タイトルは「The anti-inflammatory activity of IgG is enhanced by co-engagement of type I and II Fc receptors(IgGの持つ抗炎症効果はtypeIとtypeII Fc受容体の両方が関わっている)」だ。
以前は免疫グロブリンを注射する目的は、その中に特異抗体があるからと考えられていたが、感染症を除くと、免疫グルブリンの抗炎症効果の大半はFc受容体を介して発揮されることが知られている。このFc受容体研究の第一人者が Ravetch でこの研究もこの研究室から発表されている。
この研究では炎症を抑えるFcの設計をまず行っている。抗原結合部分が必要無いことを明確にするため、抗原結合部を除いたFc部分を精製して用いている。またこれまでの研究で免疫グロブリンFc部分に糖鎖が結合してシアル化されている必要があることが知られており、この点を調べるために糖鎖を酵素で除去したFcも作成している。この効果を確かめる炎症モデルとして、リュウマチモデルマウスの血清を注射したときに起こる炎症を用いている。
この炎症を抑えるために免疫グロブリンは2.5g/Kg必要だが、Fc部分にすると100mgで効果があり、25倍活性が上がる。しかし糖鎖を除去すると、この効果は見られない。
ここからは Ravetch さんの得意分野になるが、Fcが結合するFc受容体は数多く存在し、しかも炎症を高めるシグナルドメインを持つタイプと、炎症を抑えるシグナルドメインを持つタイプに分かれている。そこで、Fcに突然変異を導入してそれぞれのタイプへの親和性を変化させて、より炎症を抑えるタイプのFcγRIIBに親和性を持つV11Fcを作成し、これが通常のFcと比べてさらに10倍活性が上がり、10mg/kg で効果が見られることを示している。
残るは、FcγIIBへの結合だけを見ると糖鎖の結合は無関係なのに、なぜ糖鎖が結合しているFcだけに抗炎症作用があるのかという問題だが、これについては細胞膜上に存在するtype II Fcγ受容体として知られる細胞膜上のレクチン(糖鎖結合タンパク質)がFcγIIBと結合することが鍵になることを示している。即ち、type II FcγRはレクチン機能を介してFcγIIBと細胞膜上で安定なコンプレックスを形成することでFcγIIBの発現量が上昇し、さらにこのレクチンにより糖鎖修飾を受けたFcがFcγIIB上に濃縮され易くなるという2重の効果によって、FcγIIB刺激が高まり、これが自然免疫を抑えるというシナリオになる。
おそらく合成させる細胞を選べば変異を導入してシアル化されたリコンビナントの製剤を作ることは可能になる。ただ、コストの面で人から精製するのとどちらが安いかという問題になるが、少なくとも供給の不安はなくなるように思う。
