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11月15日 イヌと人間の歴史をたどる論文2題(11月13日 Science 掲載論文)

2025年11月15日
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イヌはオオカミが家畜化されて生まれた種だと考えられているが、このHPで紹介しているように(https://aasj.jp/news/autism-science/11104)、オオカミとイヌのゲノムを比べると、「天使の笑顔」と称される人なつっこさを持つ遺伝子疾患ウイリアムズ症候群で欠損しているのと同じ領域の構造変化がイヌで起こっていることが2017年報告された。即ち家畜化の過程で人になつく動物が選択されたのだろう。その後、特にビクトリア朝時代のブリーダーの手によってサイズから形態まで現在見られる大きな変化が誘導されることになるが、家畜化の初期にはどの程度の変化が生まれていたのかを知ることは重要だ。

今日紹介する最初の論文、フランスモンペリエ大学と英国エクセター大学からの論文は、様々な時代に出土したイヌの頭蓋骨の形態をオオカミや現代のイヌの頭蓋と精密に比べた研究で、11月13日 Science に掲載された。タイトルは「The emergence and diversification of dog morphology(イヌの形態の出現と多様化)」だ。

研究では5万年前から現代まで、イヌ科の頭蓋を集めて比較している。更新世の頭蓋骨はほとんど現代のオオカミと同じ大きさで、その後1万年ぐらいの完新世になると多様性が大きくなり、平均値は低下する。この多様性は現代のイヌの多様性と似ているが、現代のオオカミではほとんど多様性がない。

様々な計測を元に主成分分析をすると、現代のイヌは広く分布し、サイズ以上の多様性が見られる。これに対しオオカミや更新世のイヌ科の頭蓋は重なる小さな領域に分布する。そして、完新世になると急に多様化が進むことがわかる。

詳細は省くが、このような詳細な形態学的解析から、オオカミから分離した頭蓋と特定できるのは、ロシアの中石器時代の頭蓋で、その後、完新世に入ると大きな形態学的多様性が生まれることから、この変化はもっぱら人間の好みに合わせて発生したのではないかと結論している。

同じ Science に掲載された中国昆明動物研究所とミュンヘン大学を含む国際チームからの論文は、1万年の完新世以降の世界から出土したイヌの骨のゲノム解析と人間のゲノム解析に重ね合わせて人間との関係を調べた研究で、タイトルは「Genomic evidence for the Holocene codispersal of dogs and humans across Eastern Eurasia(ゲノム解析から東ユーラシアの人間とイヌは一緒に異動したことがわかる)」だ。

最初の論文でわかるように、イヌが家畜化されたのはロシアのシベリア地区と考えられているが、この研究では Zhokhov で発見されたイヌのゲノムをイヌの起原として考えていいことをまず確認している。

これを元に、既に報告されているゲノムも含めて、イヌのゲノムの多様化を時代と地域にプロットした後、ゲノム研究から明らかになっている人間の移動と重ね合わせている。特に中国は、西からの農耕民の移動と北からの狩猟採取民の移動が混じり合う地点で、イヌの移動と重ね合わせるには最適の領域になっている。

結果だが、中国では5000年より前には西からイヌが持ち込まれているが、5000年以降に北西ロシアから、そしてシベリアからのイヌとの交雑が見られる。このパターンは、中国での民族形成過程とオーバーラップすることから、イヌの移動はほぼ民族の移動と重なると結論している。

詳細はほとんどすっ飛ばして紹介したが、イヌの歴史を見ることは人類の歴史を見ることに他ならない。例えばシェパードのようなオオカミに近い形態を好んだ人間の生活はおそらく狩猟採取民の生活と重なるだろう。しかし、農耕が進むのと並行して草食が中心になると、顔は大きく変化したはずだ。そして極めつけはビクトリア王朝で始まった、人間の趣味に合わせた形や性質の変化の誘導で、ペット時代が始まることになる。ある意味で、イヌは受難の動物かもしれない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    中国では5000年より前には西からイヌが持ち込まれているが、5000年以降に北西ロシアから、そしてシベリアからのイヌとの交雑が見られる。
    このパターンは、中国での民族形成過程とオーバーラップし、イヌの移動はほぼ民族の移動と重なる!
    Imp:
    犬は、人の伴侶動物である証拠。

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