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11月26日 ヒト多能性幹細胞とマウス胚盤胞細胞の不適合性の原因(11月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025年11月26日
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我が国では東大医科研の中内さんを中心に、ヒト臓器を他の動物に作らせるための種間キメラ作成研究が行われていると思うが、発生時間の違い、接着や増殖因子のミスマッチなど様々なバリアが存在するため、よほど近い種でないとうまくいかない。近い種とは遺伝的に近いことで、ブタとマウスを比べた時ヒトに近いのはマウスの方で、おそらくブタと人間の異種間キメラの方が遺伝学的には難しいはずだと思うが、話はそう簡単でもない。例えば筋肉発生が抑制されたブタ胚にヒト iPS細胞を移植するとヒト型の筋肉が形成できている。他にも Bcl2 を導入して細胞死を防ぐと、10日胚までヒト細胞が維持されるなど、このバリアを超える試みが続いている。

今日紹介するテキサス・サウスウエスタン大学と中国深圳の北京ゲノム研究所からの論文は、マウス胚でヒト幹細胞を拒絶するバリアの新しいメカニズムを明らかにした研究で、11月24日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「RNA innate immunity constitutes a barrier for interspecies chimerism(RNAに対する自然免疫が異種間キメラのバリアになっている)」だ。

このグループは試験管内でヒト多能性幹細胞 (hPSC) とマウス胚盤胞細胞 (mEpSC) を一緒に培養すると、hPSC だけがアポトーシスに陥ること、そしてこのバリアは mEpSC から自然免疫系や p53 を除くと消失することを発見し、キメラ形成の難しさの一因が、hPSC により mEpSC の自然免疫系が活性化され、生存競合性の強い細胞ができるためであることを既に明らかにしていた。

この研究では hPSC が mEpSC を活性化するメカニズムを探っている。hPSC と一緒に培養した mEpSC の遺伝子発現を調べると、単独で培養したときよりRNAセンサーとして知られる RLR が強く誘導されていること、そしてその下流のシグナル分子も上昇することを発見する。即ち、hPSC由来のRNAを認識して自然免疫系が活性化されている可能性を示唆している。

そこでこのRNAにより誘導される自然免疫をブロックするため、MAVS分子をノックアウトした mEpSC を作成し、hPSC と一緒に培養すると、今度は hPSC は普通に増殖できる。従って、hPSC から何らかのルートで侵入してきたRNAによって mEpSC の自然免疫系が刺激され、その結果 mEpSC の増殖力が上がって、hPSC が排除されると考えられる。ただ、この競合力が上昇する詳しいメカニズムは明らかにできていない。

この研究では hPSC からのRNA移行について詳しく調べている。共培養した mEpSC 中のヒト由来RNAを調べると、2日目には1.3%のRNAがヒト由来であることがわかり、かなり多くのRNAが移行してくることがわかる。ただ、特定のRNAが移行するのではなく、全くランダムにRNAが移行してくること、そしてマウスのRNAもヒトに移行する事を発見する。また、この移行には細胞間に形成されるトンネルのようなブリッジが関わることも明らかにしている。

この結果、mEpSC の自然免疫系だけが活性化され、マウスのRNAが移行してきた hPSC では何の反応も起こらないのは不思議だが、この非対称性の原因についても明らかにはなっていない。ただ、バリアーの一つが明らかになったことで、キメラ形成率を上げることが期待できる。

これを確かめるため、RNAセンサーが働かないノックアウトマウスの胚盤胞に蛍光遺伝子をラベルしたヒトES細胞を移植してキメラ形成を調べると、10日胚までこれまで得られなかったレベルのキメラが形成されており、異種間キメラ、特にマウス胚を用いるという点では大きなブレークスルーになったと思う。今後、どのような細胞系列にヒト細胞が分化できるのか、より詳しい研究が進むのを期待する。

  1. okazaki yoshihisa より:

    hPSC由来のRNAを認識して自然免疫系が活性化されている可能性を示唆している。
    imp,
    RN Aを介した自然免疫系が関与しているとは!

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