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12月5日 発ガン過程に必要な遺伝子変異の順序(12月3日 Nature オンライン掲載論文)

2025年12月5日
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3日前、遺伝性大腸ポリープ症で発生した一個一個のポリープは決してクローンではないという論文を紹介したところだが(https://aasj.jp/news/watch/27906)、この問題をより実験的に扱った面白い論文がケンブリッジ大学から12月3日 Nature に発表されていたので紹介する。タイトルは「Decay of driver mutations shapes the landscape of intestinal transformation(ドライバー変異の減少が腸の形質転換を決めている)」だ。

発ガンが多段階的に蓄積する様々な変異によることは間違いない。ただ、それぞれの遺伝子変異を考える時、ドライバー変異、がん抑制遺伝子の欠損等々と、イエス or ノーと言った単純な図式で考えてしまう。しかし、それぞれの分子は様々な領域で他の分子と相互作用し、多様な機能を持つ。例えばAPCは上皮細胞の増殖の必須因子Wntの下流のβカテニンと相互作用し分解を誘導して増殖を抑えているが、他にもβカテニンは細胞接着にも関わることから、当然APCも細胞接着に関わる。

今日紹介する論文の最大の売りは、この腸上皮の形質転換からガン化までの複雑性を浮き上がらせられるよう上手く計画された実験のアイデアだ。具体的には、腸上皮に発ガン遺伝子やガン抑制遺伝子欠損を誘導することはこれまでと同じだが、これまで知られているガンの遺伝子変異の一つだけを遺伝的に誘導して、その後発ガン剤を用いてランダムに遺伝子変異を誘導し、できてきた腫瘍の遺伝変異を詳しく調べ、最初に導入した変異とカップルしやすい変異をリストしている。そして、発ガンまでに最も選択される変異が上皮の増殖に関わるWnt下流のβカテニンとAPCの変異であることを確認している。

ここまでは単純な発想で納得するが、次にβカテニンのどのような変異が最初に導入した変異とカップルするかを調べると、例えばKRAS変異やP53変異はβカテニンのS37F変異、Fbxw7変異はD32G変異とカップルする頻度が圧倒的に高いことがわかり、どちらの変異も基本的にはカテニンの分解抑制だが、他の遺伝子変異と共同するときは相互作用する場所が異なることがわかる。

特に面白いのはAPCの変異で、最初に導入した遺伝子変異とカップルしやすい変異の場所を8種類に分けることができること、そして、多くの遺伝子変異とカップルする場所はアルマジロ領域と呼ばれるβカテニン結合部位の変異であること、一方Ptenの変異はAA繰り返し部位と強くカップルして、細胞接着の変化を通してガン化に関わることを示している。

この研究で最も面白いデータは、遺伝子を導入したあと発ガン剤という順序を逆にした実験を行って後から導入した変異により選択される変異を調べている点だ。即ち、まず変異剤をマウスに投与、その後10日目、あるいは30日目で出てくる腫瘍を取り出し、遺伝子変異を調べている。

この結果わかったのは、例えば先にKRAS変異を導入したとき協調するAPCやβカテニン変異は、順序を逆にすると頻度が低下する。即ち、先に発ガン剤処理で誘導した変異でもAPCやβカテニン変異はKRAS変異で選択されないことを示している。さらに後から誘導するガン遺伝子によっては、極めて限られたAPCの領域の変異だけが選択されることがわかる。APCの変異やβカテニンの変異は上皮の増殖を促進させる方向で起こっていることを考えると、そこに例えばKRASが加わる自体が細胞にとって抑制的に働くことを示している。私見だがこれは addiction と呼ばれる現象に関わる気がする。

詳しくは述べないが、この変異を見てみると、上皮の増殖に関わるWntシグナルや細胞接着で知られた分子間相互作用を反映していることもわかる。

以上が主な結果だが、ガンの多段解説は決して単純明快な図式で考えてはならないこと、そして遺伝的バイアスがあったとしても、ランダムな変異と選択という過程は決して単純明快な図式に収まらないことを示す面白い研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ガンの多段解説は決して単純明快な図式で考えてはならない。
    遺伝的バイアスがあったとしても、ランダムな変異と選択という過程は決して単純明快な図式に収まらない。
    Imp:
    腫瘍進化の実態!
    ネオアンチゲン選定もAIを使うと精度があがるのか?

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