様々な慢性腎臓病 (CDK) の中で、膜性腎症 (Membranous nephropathy: MN) は病態が特殊だ。足細胞(ポドサイト)と呼ばれる糸球体の血管を取り巻くように存在する特殊な中胚葉系の細胞の膜上に発現する抗原に対する自己抗体が病気の原因だが、炎症像はほとんど見られず、基本的には血液を濾過するフィルターを調整する足細胞のネットワークの機能的障害が起こる結果、ネフローゼと呼ばれる大量のタンパク尿を中心とする症状が形成される。この時に標的になる足細胞膜分子はほぼ特定されており、しかも病気を起こすのはIgG4であることがわかっている。
今日紹介するドイツハンブルグ・エッペンドルフ大学からの論文は、足細胞表面上で抗原と自己抗体が結合すると、それが抗原と抗体を含む小胞を外側に吐き出し、尿中に検出できることを示した研究で、12月4日 Cell に掲載された。タイトルは「Autoantibody-triggered podocyte membrane budding drives autoimmune kidney disease(自己抗体は足細胞膜状での出芽を誘導し自己免疫性腎臓病を誘導する)」だ。
尿中には細胞から吐き出された小胞が混ざっていることは知られていたが、この研究ではMNの場合、足細胞上の抗原と自己抗体の複合体を含む細胞症法形成に必要な様々な分子が含まれている小胞である事を、バイオプシー標本や腎臓から得られた小胞を使って明らかにしている。実際、患者さんから採取した小胞に含まれるタンパク質解析を行うと、14−3−3分子のような様々なシグナル分子、接着分子などが含まれており、これまでMNの自己抗原として知られるほとんどの分子を特定することができる。
次にヒト足細胞培養に自己抗体を加えた実験で細胞が突起を伸ばしてそこから小胞が発生することを確認し、また患者さんから得られた小胞内に抗原・抗体とともにアクチン重合シグナルに関わる14−3−3分子が含まれていることを示すことで、小胞形成過程がシグナル依存的アクティブな過程であること、そして14−3−3分子は抗原抗体結合物が膜状で集合することに関わることを明らかにしている。
小胞形成過程をさらに詳しく調べるため、マウスモデルを用いて自己抗体投与後の糸球体を経時的に調べると、まず血管から侵出してきた抗体が、血管と接する側で自己抗原と結合、これが14−3−3分子をリクルートすることで、足細胞の反対側の膜まで移動する。その後この集合体を中心に細胞突起が伸びて、これが細胞から切断することで尿とともに小胞が形成されることを示している。
もちろん全ての抗原抗体複合体がこのように尿に排出されるわけではなく、従来考えられていたように、タンパク分解酵素で膜から切断された後、血管基底膜と足細胞の間に蓄積される複合体も存在する。これまで知られていたように、この集合がC5b活性化による足細胞の障害の原因になっていると考えられるので、小胞体形成は障害性の抗原抗体複合物を除去する役割があると考えることができる。ただ、小胞形成が足細胞機能を保護するだけではないこともわかる。例えばタンパク分解酵素をノックアウトしたマウスではこのような基底膜下のデポジットは減る一方、MNの症状は悪くなる。このことは、小胞が細胞から切り離される過程で足細胞の重要な機能を担う細胞スリットなどが傷害され、濾過調節機能が損なわれることもあることを示している。
最後に、血中自己抗体と病態とが比例しない患者さんでも、尿中の自己抗原抗体複合体を持つ小胞の出現を調べることで、病気の経過を正確に把握できることも示している。
以上が結果で、再生力が内にもかかわらず過酷な状況で腎臓の濾過を調節している足細胞に備わった特殊な機能が、抗原抗体複合体除去を「身を切りつつ」行っていることがわかる研究だと思う。ただ、これの臨床的意義についてはまだまだ研究が必要だと思う。
