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12月23日 神経回路の安定性のメカニズム(12月17日 Nature オンライン掲載論文)

2025年12月23日
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卒中など脳に障害を受けても、リハビリテーションにより機能を回復する可能性があるのは、我々の神経回路に可塑性があるからだ。しかし、この可塑性は成長するとともに失われていく。失われると言ってしまうとネガティブになってしまうが、実際には神経回路を安定化して同じ反応を得られるようにするためには、可塑性を抑えることが重要だ。面白いことに、成長した後でも可塑性を取り戻す様々な方法が知られており、これらの研究から神経を守る細胞アストロサイトがこの安定性に重要な働きをしていることが知られている。

今日紹介する米国ソーク研究所からの論文は、アストロサイトが組織修復に関わるとして知られるCCN1を分泌して、神経回路の安定性を保っていることを示した研究で、12月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Astrocyte CCN1 stabilizes neural circuits in the adult brain(アストロサイトのCCN1は成人の脳で神経回路を安定化する)」だ。

神経の可塑性を調べるとき、ocular dominance、即ち2つある目のどちら側に反応しやすいかが神経細胞レベルで決まっていくが、特にマウス1次視覚野では ocular dominance が強い。そこで生後28日目と120日目のマウス視覚野に存在するアストロサイトの遺伝子発現の違いをリストし、その中から ocular dominance の可塑性を変化させる様々な実験での遺伝子発現の差を手がかりに可塑性に関わる遺伝子を探索し、回路が安定化するに従い発現が上昇し、暗い部屋で育てることで安定化を遅らせると発現が低下し、さらに片方の目を潰したときに特に反対側の視覚野で発現が低下する、即ち回路を安定化させる分子としてCCN1を特定した。

あとはアストロサイトにこの分子を強発現させたり、あるいはノックアウトしたときに、1次視覚野の神経反応を調べ、可塑性があるかどうかを調べる。このために、片方の目を潰して4日後の視覚野の反応を調べocular dominanceの安定性を検証している。

生後28日目のマウスで、片方の目を塞いで4日目には両眼に反応する領域で残っている目に反応する神経の数が上昇するリモデリングが起こるが、CCN1を強発現させるとこれが消失する。一方で、アストロサイトのCCN1を生後1ヶ月目にノックアウトさせ、4ヶ月待ってから片方の目を塞いで ocular dominance がリモデリングされるかどうかを単一神経細胞レベルで追跡すると、CCN1がないと視覚野をリモデリングする可塑性が残っていることがわかる。逆に両眼視力の安定性がないため、高低の差がある飼育環境で行動させると、深さの感覚が安定していないため、何度も下に落ちる。

あとはCCN1により回路の安定性が維持されるメカニズムを調べ、

  1. CCN1は細胞接着を調節するピニンの量を介在神経の周りで上昇させることで、介在神経の成熟を促進し、回路を安定させる。この時CCN1はインテグリンの結合を通してミクログリアの貪食機能を変化させ、ピニン量を調節している。
  2. CCN1からインテグリン結合部位のアミノ酸を変異させると、回路安定か機能は消失する。
  3. CCN1はオリゴデンドロサイトの分化を誘導し、神経軸索のミエリン化を誘導する。

等を通して回路の安定性に寄与していることを明らかにしている。

結果は以上で、ocular dominance を実験系として用いているが、ノックアウトすると可塑性が回復する点は重要で、神経損傷後のリハビリテーション効率を上げるといった新しい実験系で調べると面白いのではないだろうか。

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