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12月27日 代謝ストレスによる肝臓ガン発生までの大規模オミックス(12月22日 Cell オンライン掲載論文)

2025年12月27日
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病気の種類を問わず、特定の病気について一つのグループで全てのデータを産出するとなると限界があるが、最近のようにデータベースが整理されてくると、自分のデータを中心に、様々なデータを比較することが可能になり、single cellレベルの遺伝子発現やエピゲノムから、代謝物を調べるメタボローム、更には組織レベルでの遺伝子発現まで調べ尽くして、病気のメカニズムを探るスタイルのオミックス研究が盛んに行われるようになった。

今日紹介するMITからの論文は、高脂肪食を摂取させ続けることで誘導するマウス肝ガン発生までの過程の肝臓のオミックスデータ解析結果から得られる視点で、人間の代謝性脂肪性肝疾患や肝ガンのオミックスデータを見直し、代謝ストレスが早い段階から肝臓ガン誘導環境を形成することを示した研究で、12月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Hepatic adaptation to chronic metabolic stress primes tumorigenesis(慢性的な代謝ストレスに対する肝臓の適応がガン発生を始動する)」だ。

高脂肪食と糖を摂取させることでマウス肝臓ガンが発生するという恐ろしい結果は2016年に報告されているが(Journal of Hepatology:65,579,2016)、この系を踏襲しながらも肝ガン発生までの経過を6ヶ月、12ヶ月、15ヶ月と追跡、全ての時点で単一細胞レベルのトランスクリプトーム、エピゲノム、組織レベルのトランスクリプトームを行い、この解析から得られる結果を、他のデータと比べる視座に置いたのがこの研究の最大の売りだ。ただ、オミックス研究の焦点を抜き出すのはなかなか難しく、読み進むうちに面白いと思った点だけを箇条書きにする。

  1. 面白いことにガンのゲノムの研究は全く行っておらず、基本的には代謝ストレスによりエピゲノムが変化し、その結果肝ガン誘導環境が整うという考え方に立っている。すなわち、代謝ストレス応答自体が肝ガンの原因になっていることになる。
  2. 代謝ストレス応答で、肝臓の本来の機能に関わるプログラムの発現は低下するが、Wntなどの増殖プログラムが更新する。この変化は1年齢で既にはっきりしており、肝ガン誘導の環境が形成される。
  3. この原因となる転写の変化は、Sox4とRELBの転写システムが上昇する事が原因となっている。また、これを指標に組織解析を行うことでガン発生の場所を明らかに出来る。
  4. 個人的に興味を引いたのはケトン体を作るHMGCS2分子の低下で、ケトン体が出来ず、コレステロールなどの他の脂質合成が上昇する事がガンのシグナルになっていることを明らかにしている。
  5. 人間の代謝性脂肪性疾患や肝ガンのデータベースと対照させると、組織学的に強い線維化がマウスでは存在しない点などいくつかの違いはあるが、特にSox4とRELBを中心とするストレス環境の成立、それによる肝臓の増殖優位プログラムの発現などはほぼ再現できている。

このメカニズムについては、ヒト肝臓培養細胞への遺伝子導入などを繰り返して、確認もしており、分子、機能、組織を組み合わせた統合的な研究で説得力は高い。個人的意見だが、生活習慣を改善して、代謝ストレスを抑える以外の介入方法は示せていないと思うが、肝ガンは生活習慣で起こるガンの代表として研究されていくと確信した。

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