炎症性腸疾患 (IBD) の研究で最近特に目立った研究者の一人がハーバード大学の Ramnik J Xavier だ。このブログでも何度も紹介してきたが、論文は新しいアイデアが満載で読んでいて面白い。例えば2024年11月に紹介した Nature の研究では、細菌叢の研究でほとんど調べられてこなかった、細菌叢と直接触れる消化管全体の細胞の変化を統合するというチャレンジングな研究はその例だ(https://aasj.jp/news/watch/25676)。
今日紹介するXavier研究所からの論文は、IBDの結果起こってくる腸の線維化を誘導するメカニズムについての研究で、腎臓や肺と異なりあまり線維化が取り上げられてこなかったIBD研究に新しい視点を切り開いていると思う。タイトルは「Bidirectional CRISPR screens decode a GLIS3-dependent fibrotic cell circuit(両方向のクリスパースクリーニングによりGLIS3依存性の線維が細胞回路が解読される)」で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。
研究は最初からIBDで起こる線維化に焦点を当てている。そしてどう攻めるかを決めるために、クローン病や潰瘍性大腸炎患者さんのデータベースから single cell RNA sequencing や組織DNA解析のデータを集め、線維芽細胞を分類、最終的に炎症により誘導され、炎症や線維化に深く関わる線維芽細胞IAFを特定している。この細胞は線維化に関わる様々なコラーゲンやタンパク分解酵素、炎症細胞を誘導するケモカインに加えて、これまであまり注目されなかった分子を発現している。個人的には、通常リンパ球で発現しているIL-7Rが発現しているのが気になったが、この研究ではIL-11に注目した。
IL-11を抑制すると老化を抑制できるという論文を以前紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/24856)、老化を進める細胞の一つが線維芽細胞で、肺線維症や腎硬化症が老化リスクと連結していることを考えると、IL-11を選んだことはうなずける。事実、IL-11を炎症誘導前にノックアウトしておくとIAFの出現を強く抑制し、線維化を抑えることができる。
次にIL-11発現を指標に線維芽細胞を刺激する細胞やサイトカインを探索すると、マクロファージから分泌されるTGFβやIL-1βが線維芽細胞を刺激し、IL-11のみならず線維化に関わる多くの遺伝子を誘導していることがわかった。
そこでこの線維化プログラムを調節しているマスター遺伝子の探索に進むが、この時タイトルにある双方向性のCRISPRスクリーニングを行っている。双方向とは、Cas9により遺伝子ノックアウトによるスクリーニングに平行して、CRISPRシステムで遺伝子発現を誘導するVP64を作用させる、即ちオンとオフの両方から線維芽細胞活性化刺激に反応する遺伝子を調べている。
このスクリーニングから線維化プログラムのマスター分子として見つかったのがGLIS3だが、他にも予想されるTGFβシグナルや、IL-1βシグナル分子、そしてYAP/TAZと言ったシグナルが関与することも明らかになっている。期待通り、GLIS3を線維芽細胞でノックアウトすると、線維化を強く抑えることができる。また、GLIS3が線維化プログラムに関わる多くの遺伝子の上流に結合していること、さらにはGLIS3がYAP下流のTEADやIL-1β及びTGFβの共通の下流にあるFOSL/JUNと結合することで、遺伝子発現を調節していることを示している。
人間のIBDとの関わりもデータベースで検討しており、GLIS3の発現とIBDの重症度が相関することを示している。
腸管での線維化というあまり研究の進んでいなかった領域に踏み込み、細胞から分子までXavierならではの包括的研究が行われている。この研究は腸にとどまっているが、肺や腎臓でもIL-11やGLIS3の可能性は調べる価値があると思う。

IL-11発現を指標に線維芽細胞を刺激する細胞やサイトカインを探索すると、マクロファージから分泌されるTGFβやIL-1βが線維芽細胞を刺激し、IL-11のみならず線維化に関わる多くの遺伝子を誘導している!
imp.
今回もIL11.
老化との関連が疑われているサイトカイン!
「腸の線維化」は、あまり注目されていませんが、患者が非常に多く医療経済的に、より重要なのは「大腸憩室症」です。「大腸の老化」とも言える多因子的で緩慢な病態のため研究は「暗黒大陸」でしたが、IBDの線維化というより明快な現象の研究が突破口になるのではないかと感じます。