このブログでも紹介してきたが、多発性硬化症はEBウイルスにより引き金を引かれることはほぼ間違いがない。しかし、EBウイルスはB細胞に感染し神経に感染するわけではないことから、EBウイルスの感染から多発性硬化症の発症までの過程を説明する必要がある。これについての最も有力な説が、EBウイルス感染により誘導される抗体やT細胞が、ミエリンや神経細胞発現分子と交叉反応をするという考えだ。1月13日オンライン掲載された論文の中に、3編もこの問題を扱った論文があったので、まとめて紹介する。通常同じ課題についての論文がまとまって発表される場合、同じ結論というのが普通だが、今回はEBウイルスにより自己抗原に対する反応が起こるという点では同じだが、それぞれ異なるメカニズムを扱っているので3編とも紹介する。ただ、詳細はかなり省くことにした。
最初はバーゼル大学からの論文で、ミエリンに対する受容体を発現するB細胞がEBウイルスで生存増殖し、これが自己免疫T細胞を誘導する可能性を示した研究で、タイトルは「Myelin antigen capture in the CNS by B cells expressing EBV latent membrane protein 1 leads to demyelinating lesion formation(中枢神経内でEBウイルスのlatent membrane protein 1を発現するB細胞に取り込まれたミエリン抗原は脱ミエリン化を誘導する)」だ。
この研究は抗原刺激を受ける前のB細胞が体中を循環し、そこで抗原に出会った時、ヘルプするT細胞が存在しないとそのまま細胞死に陥るという説を前提として、ミエリンに対するB細胞をマウスで調べている。B細胞は中枢神経系にも進入し、細胞表面の蛍光色素ラベルした抗原に結合、さらに抗原を細胞内に取り込むが、通常はそのまま死んでしまう。ただ、T細胞によるCD40刺激が加わると、生存増殖して抗原提示細胞として自己抗原に対するT細胞を誘導する。
この研究ではミエリンと反応したB細胞がEBウイルスに感染していると latent membrane protein1 の作用でCD40シグナルがなくても細胞死を免れ、ミエリン由来ペプチドをT細胞に提示し、T細胞性自己免疫反応を誘導することを示している。
以上をまとめると、EVウイルスは、自己反応性のB細胞の細胞死を防ぐことで自己抗原をT細胞に提示し、自己免疫を起こしているということになる。とすると、当然他の自己免疫疾患にもおなじ機構が働く可能性がある。
次は中国科学技術大学と、スイスチューリッヒ大学からの論文で、EBウイルス感染によりB細胞が発現しているミエリンを処理して抗原提示する能力が獲得され自己免疫を誘導することを示す研究で、これも交叉反応ではなく自己抗原がEBウイルスにより提示されるという話になる。タイトルは「EBV infection and HLA-DR15 jointly drive multiple sclerosis by myelin peptide presentation(EBウイルス感染とHLA-DR15は協調してミエリンペプチドを提示し多発性硬化症を発生させる)」だ。
EBウイルス感染過程は極めて複雑で、抗原刺激B細胞と同じで感染後、Latency III を経てリンパ節の胚中心 dark zone へ移動した Latency I 、その後リンパ節を離れて完全に潜在化する Latency II から Latency 0 へと進んでいく。
この研究では初期感染時にB細胞を増殖させリンパ球へ移動させるためEBウイルスの持つ全ての遺伝子が動員される Latency III でB細胞に起こる大きな変化の結果、B細胞が異所的に発現している Golli-myelin タンパク質を処理してHLAに提示するという仮説を考えた。
そこで試験管内でB細胞にEBウイルスを感染させ Latency III の状態を作って調べると、多発性硬化症の最大のリスク分子HLA-DR15を持つB細胞で、自己抗原として知られているミエリン由来ペプチドが提示されていることがわかった。また、このB細胞によりCD4T細胞の反応が誘導できることも示している。
以上から、EBウイルスの感染、特に Latency III と呼ばれる初期では、B細胞自身がミエリン反応性T細胞を刺激できるペプチドを合成して、MHC-R15にロードすることが、自己免疫の引き金になっていることを示している。
最後のスウェーデンカロリンスか大学からの論文は、B細胞ではなく自己反応性のT細胞に着目し、EBウイルス分子に対するT細胞が、神経細胞などが発現する Anoctamin-2 を認識して脳の炎症を進行させることを示した研究だ。タイトルは「Anoctamin-2-specific T cells link Epstein-Barr virus to multiple sclerosis(Anoctamin-2特異的T細胞がEBウイルスと多発性硬化症を結びつける)」だ。
Anoctamin-2 に対する自己抗体は多くの多発性硬化症患者さんで検出できる。この研究では、多発性硬化症の患者さんのコホート研究で得られた末梢血細胞を用いて、この分子に対するCD4T細胞が誘導されていることを発見し、ミエリンだけでなく、この分子に対するT細胞反応も多発性硬化症に関わっていることを明らかにしている。
マウス多発性硬化症モデルは通常ミエリンで免役して誘導するが、Anoctamin-2免疫でも同じような脳炎を誘導できることから、多発性硬化症を考えるときの重要な自己抗原であることが証明された。
これを確認した上で、Anoctamin-2 に対するT細胞を、EBウイルスが持つEBNA1抗原を発現したB細胞でも誘導できることを示したのがこの研究のポイントになる。即ち、EBNA1を発現し、HLA-DR5を発現したB細胞は、Anoctamin-2 に対するT細胞を誘導する。さらに、患者さんが発現する自己抗体が結合したAnoctamin-2 がB細胞へと取り込まれると、同じ抗原の他の部分に対するT細胞まで誘導されることを示している。
以上、EBウイルスは自己抗原と交叉性を示す抗原を持つが、ミエリンではなくAnoctamin-2 であるという結論になる。Anoctamin-2 は血管にも発現していることから、同じT細胞は血管内皮を傷害して、炎症を増強させる可能性も示されている。
以上3編を改めて振り返ると、多発性硬化症がいかに複雑な病態かがよくわかる。ただ、EBウイルスが全ての元にあるので、パピローマワクチンと宮ガンのように、ワクチンで予防するのがいいのかもしれない。

ミエリンに対する受容体を発現するB細胞がEBウイルスで生存増殖し、これが自己免疫T細胞を誘導する可能性を示した研究!
Imp:
自己免疫疾患のT細胞を焚きつけているのはB細胞!?
B細胞を標的としているはずのCD19-CAR-T細胞が、T細胞が主原因と考えられている潰瘍性大腸炎に効いた症例報告あります。
潰瘍性大腸炎でもT細胞を焚きつけいるのはB細胞なのかも?!
(CD19 CAR T-Cell Therapy in Multidrug-Resistant Ulcerative Colitis | New England Journal of Medicine)