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1月18日 肥満で自然炎症が亢進するメカニズム(1月15日 Science 掲載論文)

2026年1月18日
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Covid-19パンデミックで広く知られるようになったが、肥満の人は重症化しやすい。特に感染により様々な炎症性サイトカインが分泌されるサイトカインストームが起こりやすいことから、これが重症化の一因とされている。しかしなぜ肥満の人は炎症性サイトカイン分泌が亢進しているのかについては、理解できているわけではない。

今日紹介する米国テキサス大学からの論文は、肥満による自然炎症亢進の原因の一つにマクロファージのミトコンドリア核酸代謝の変化が存在することを示した研究で、1月15日 Science に掲載された。タイトルは「Nucleotide metabolic rewiring enables NLRP3 inflammasome hyperactivation in obesity(核酸代謝回路の書き換えが肥満でのNLRP3インフラマゾームの過剰活性化を可能にする)」だ。

タイトルにあるNLRP3分子は、細胞内での炎症反応を組織化しているインフラマゾームと呼ばれる複合体の核になる分子で、活性化により炎症性サイトカインIL-1βが分泌され、このブログで何度も取り上げたピロトーシス(https://aasj.jp/?s=%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9&x=0&y=0)が起こる。この研究では肥満の人や肥満マウスからのマクロファージを取り出し、NLRP3を刺激したとき、肥満個体からのマクロファージでIL-1βの分泌が高まることを確認し、この実験系で肥満がNLRP3を活性化させるメカニズムを探っている。

ミトコンドリアから発生するDNAがNLRP3を活性化することが知られているので、この過程に絞って研究を進めているが、まず肥満個体由来マクロファージでは、ミトコンドリア由来のDNAが上昇していることを突き止める。元々ミトコンドリアには、CMPK2と呼ばれる核酸を再利用する経路が備わっており、これによりミトコンドリア独自の核酸を合成し、増殖に使っているが、肥満で上昇しているのはこの経路とは異なる経路であることがわかった。

肥満個体由来マクロファージでは細胞質の核酸の上昇も見られるので、この核酸がミトコンドリアに取り込まれて利用されているのではと考え、細胞質で核酸を分解しているSAMHD1と言う酵素の活性を調べると、肥満によりこの分子のリン酸化が起こって酵素活性が低下している。また、この分子をマクロファージでノックアウトすると、肥満がなくても炎症を亢進させることがわかった。すなわち、SAMHD1の酵素活性が肥満によるリン酸化で低下して、細胞質の核酸が上昇し、これが取り込まれることで、ミトコンドリアDNA合成上昇、その結果としてミトコンドリアからのDNAの排出が高まり、NLRP3の活性化を亢進させていると考えられた。

この可能性を確認するため、NLRP3が活性化されやすいSAMHD1欠損マクロファージで、ミトコンドリアへの核酸の移行を媒介するチャンネルをブロックする実験を行い、細胞質からの核酸の移行が起きないと、ミトコンドリアでのDNA合成や排出は上昇せず、その結果NLRP3の活性化による炎症の亢進が起こらないことを示している。

この経路が体内でも働いていることを示すため、マクロファージのSAMHD1をノックアウトしたマウスを作成すると、肥満とは無関係にLPSによる反応が高まり死亡率が上昇する。さらに、血中のIL-1βの上昇、インシュリン抵抗性、脂肪肝も見られることがわかった。

以上が結果で、おそらく肥満により発生する脂肪や死細胞の処理を高めるため、ひとつのマクロファージを活性化機構として、通常のミトコンドリア核酸代謝経路に加えて、細胞質での核酸分解を抑える回路が備わっており、それに肥満によるSAMDH1のリン酸化が関わっている。しかし、感染などの炎症シグナルでNLRP3が活性化されると、この機構はミトコンドリアから排出されるDNAが上昇させ、活性化されたNLRP3の活性を亢進させてしまい、肥満によってウイルス感染が重症化しやすい原因となっている。幸いSAMDH1は全身でノックアウトしてもそれほど大きな影響はないので、感染時にこの酵素を阻害して重症化を防ぐ可能性は十分あると思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    肥満による自然炎症亢進の原因の一つに、マクロファージミトコンドリアの核酸代謝の変化が存在することを示した研究!
    Imp:
    ミトコンドリアから排出されるDNAが上昇して、活性化されたNLRP3の活性を高めてしまうことが、肥満によってウイルス感染が重症化しやすい原因の一つ

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