NK細胞もキラーT細胞と同じでガン細胞を傷害するが、特定の抗原に対する特異性があるわけではなく、MHCの低下した細胞やNK細胞が発現するいくつかの受容体と結合する分子に結語してキラー活性を発揮するため、特異性のコントロールは難しい。しかし、MHCに対するGvH反応が起こらないと言う大きな利点もあるため、CAR-Tのようにガンを認識するT細胞受容体を導入して、ガン特異的キラー細胞として使う試みが進んでいる。
今日紹介するイェール大学からの論文は、HER2を認識するキメラ受容体を発現したCAR-NKのガン障害活性を高める遺伝子を、CRISPRスクリーニングして、なんと嗅覚受容体の一つがCAR-NKをスーパーキラーに変身させることを示した面白い論文で、2月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「OR7A10 GPCR engineering boosts CAR-NK therapy against solid tumours(OR7A10 GPCRはCAR-NK細胞の固形腫瘍に対する治療活性をブーストする)」だ。
通常CRISPRスクリーニングでは遺伝子を網羅的にノックアウトして、それによる機能変化を調べるが、この研究ではCRISPRによる活性化スクリーニング、即ちヘルペスウイルスのVP64転写活性化ドメインをCASに結合させ、ガイドによって指定される遺伝子を活性化するスクリーニングを用いている。従って、正常では使われない遺伝子の効果も調べることができる。
このスクリーニングで66種類の機能活性化分子を特定しており、その中には増殖を高めたりする遺伝子など予想できる分子も含まれているが、なんとトップの活性を示した遺伝子の一つが嗅覚受容体の一つ OR7A10 だった。もちろんGPCRとしてシグナルに関わるので、この分子により活性化が起こってもいいが、数ある嗅覚受容体の中でこれだけが活性があるとすると、これを刺激する分子が培養中に存在することになるが、この研究ではこの点についてほとんど何も調べていない。
理由は後回しにしてこの分子をNK-CARに導入、この分子の作用を調べると、グランザイムやパーフォリン、更にはケモカイン受容体など抗ガン活性に関わる分子の発現が上昇する。また、ミトコンドリアの数が上昇するなど、代謝が高まってガン組織での生存力が上昇する。しかも、ガン組織に存在するNK活性を抑える様々な分子の作用を受けにくくなる。
メカニズムはともかく、0R7A10を実際の臨床に使えるかをテストする目的で、キメラ受容体と合体させた遺伝子コンストラクトを造り、これを末梢血から調整したNK細胞に導入して、免疫不全マウスにヒトの固形ガンを移植した後、OR7A10導入CAR-NKを投与すると、直腸ガンモデルでも、乳ガンモデルでも完全にガンを消失させることに成功している。これはOR7A10導入により、末梢血とガン組織へCAR-NK細胞が動員されるからで、しかもNK細胞の増殖自体を変化させる要因を誘導しないことから、安全性も高いことが確認されている。
OR7A10の作用については完全にわかったわけではないが、NK受容体の一つNCR1を過剰発現させるとOR7A10の効果が高まることから、何らかの形でNKキラーシグナル経路と相互作用することで、活性を高めていることがわかる。従って同じコンストラクトをT細胞に導入しても効果がない。
最後に single cell RNA sequencing を用いて単一細胞レベルでOR7A10の効果を調べ、期待通りNK抗ガン活性に関わる様々な遺伝子の発現が上昇していることを示している。
以上が結果で、正常機能にかかわらず分子を探索するクリスパースクリーニングならではの発見で、本当ならNK-CARの可能性を高める予感がする。とは言え、何故OR7A10が活性を示したのかのメカニズムを詳細に調べることで、新しい活性化方法も見つかるかもしれない。面白い研究だと思う。
