インフルエンザやコロナウイルスが人間で流行する前、様々な動物で維持されていることは、今や専門家以外にも知られる事実になっている。そして、この動物内で維持される過程で、エンデミック、あるいはパンデミックに流行するための下地が用意されていると考えられている。すなわち、動物の中で人間で流行が進むような適応が起こっていると考えられてきた。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校を中心とするグループの研究は、この通説にチャレンジして、ほとんどの場合ウイルスが急速に進化するのは人間に感染してからである事を、様々なウイルスで確かめた研究で、3月6日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Dynamics of natural selection preceding human viral epidemics and pandemics(人間での流行やパンデミックになる前のウイルスの動態と自然選択)」だ。
基本的には人間への感染が広がるためには、人間の生活環境や免疫システムにフィットするように進化することが必要で、ウイルスの場合、コードされる遺伝子のアミノ酸変異を伴う変異の蓄積として現れる。これについても、コロナパンデミックの時にメディアを通して、コロナウイルスがどんどん変異していく様子をほとんどの人が目の当たりにした。
もしこのような人間での流行を起こす変異が動物で維持されている段階で発生しているかを、インフルエンザ、エボラウイルス、マーブルグウイルス、サル痘ウイルス、そしてサーズウイルスで調べたのがこの研究で、ウイルスの組み替えの少ない領域での変異がアミノ酸の置換を伴うか伴わないかの比を指標に調べている。研究としては極めてシンプルだ。
結果もシンプルで、動物で維持されている期間には、あまり強い選択圧がない(即ちアミノ酸置換変異が特に選択されることはない)が、人間同士で感染するようになってすぐから、アミノ酸置換変異が増え、強い選択圧が発生していることがわかる。
唯一の例外はコウモリからジャコウネコに感染したサーズウイルスで、動物内で選択圧にさらされていることがわかるが、それ以前のコウモリでは選択が見当たらない。面白いことに、この場合人に感染してもそれほど強い自然選択が起こっていないので、動物で流行が用意されても、人間でそれが反映されないことの例になっている。
SARS-Cov2についても、感染が始まった初期の中国で、コウモリ、ハクビシン、人間と調べているが、動物で選択パンデミックが進化したサインは全くないことが示されている。
その上で、最後に1950年代に流行したH1N1インフルエンザが、1977年になって再流行したケースについて詳しく調べ、おそらくワクチン作成のために実験室でウイルスが人為的に選択された結果生まれた多様性が、新しい流行を発生させたことを明らかにしている。
結果は以上で、結局人間の密度や生活環境がウイルスの多様化を生み出し、パンデミックを発生させることがよくわかった。さらに、コロナの場合、動物と人間で感染し合うことは普通にある事はスパイクに対する受容体の共通性からもわかるので、おそらくこの間にウイルスが人間の免疫システムを逃れるように進化し、後は人間の生活環境がパンデミックを生み出したのだろう。重要なのは、実験室の継代がウイルスを選択することで、生きたウイルスをワクチンとして使う場合は、十分以上に注意が必要だろう。単純な研究だが、勉強になった。

動物で維持されている期間には、あまり強い選択圧がない(即ちアミノ酸置換変異が特に選択されることはない)が、人間同士で感染するようになってすぐから、アミノ酸置換変異が増え、強い選択圧が発生している
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人間の密度や生活環境がウイルスの多様化を生み出し、パンデミックを発生させる!