最近友人が相次いで肺ガンになってアドバイスを求められた。切除する場合は少なくともオンコパネル検査をお願いするようアドバイスしたが、がん研有明病院で見て貰っている友人は最初から遺伝子検査(オンコパネルかどうかはわからないが)を勧められたらしいが、東京の中規模病院で見て貰った友人は手術をしたあとオンコパネル検査について聞いてみたところ、あまり良い返事はなく、数十万円が自己負担になり、時間もかかると言われたようだ。折しも昨日厚生労働省がゲノム医療推進機構をスタートさせたという報道を目にしたが、20年前にスリップした錯覚に陥るほどだ。我が国でゲノムに基づくガン治療が行き渡るのはいつになるのだろう。
今日紹介するオランダ・ガンセンターからの論文は、オンコパネルやエクソーム検査をとび超えて、ガンの全ゲノム解析を2021年から必要な場合ルーチン検査として行える体制を整えた後、約2年間の経験をまとめた報告で、3月20日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Real-world clinical utility of tumor wholegenome sequencing in solid cancers(固形ガンの全ゲノムシークエンシングの実臨床での有用性)」だ。
この研究では2021年1月から必要と医師が判断しコンセントがとれれば全ゲノム検査をガンセンター内で行って、レポートも発出できる体制をとり、レポートに基づいて治療を行っている。1052人に全ゲノム検査を提案し、最終的に888人に全ゲノム検査を行っている。 試料の問題などで、ゲノム検査を完遂できたのが798人 (89%) で、このぐらいの歩留まりは覚悟する必要がある。
さて、全ゲノム検査の結果、現行医療、あるいは治験中の治療も含めて、ゲノムに基づく治療が可能と判断されたのが73%で、今後薬剤が利用できるようになればかなりの患者さんで、ガンの特徴に合わせて治療することができるようになると期待できる。オランダで用いられている、523遺伝子についてのオンコパネルと比べると、ゲノム解析で見つかる中の9割は523種類の遺伝子変異を調べるオンコパネルでも検出可能である事が示されている。この研究でシークエンシングはガンセンターで行われているので、コストについては言及がないが、コストが見合えば、全ゲノム解析の方が遺伝子変異の数を調べてガンの出来方を考えたり大きな変異を見つけたり、更には将来のガン抗原の探索など、大きなアドバンテージがある。
オランダガンセンターには難しい症例が多いようで、原発不明のガンも123/723存在していた。期待通り、このような困難なケースでは、原発ガンの特定や、治療法の決定にゲノム検査の貢献度は大きいことも示されている。また原発不明のガンの場合、原発がわかっている場合と比べ変異数も多い。
次は治療方針決定に役立ち、またその結果患者さんの生存を伸ばせるかが問題になる。治療方針決定に役立つかどうかについてはガンによってまちまちで、肺ガン、乳ガン、前立腺ガンなどは治験中も含めて多くの薬剤が利用できるようになっている。一方、中皮腫や腎がんではゲノム解析がまだ役に立つ段階ではない。
最後に解析に基づく薬剤を使った場合と、そうでない場合を比べると、全く治療を受けない場合は生存期間が3倍に伸びるが、通常の臨床で使われるガン治療と比べたときの差は小さい。とすると、わざわざ全ゲノム解析などしない方がいいという結論になるが、今回対象になった患者さんは既に標的薬も含めて様々な治療を行っている。そこで、ガンセンターに来る前に標的治療や化学療法をうけていない人と既に受けていた人に分けると、受けていなかったグループだけゲノム解析の大きな効果が出たことを示している。すなわち、ゲノム検査は最初の治療の際に行うべきである事が明確に示された。
以上が結果で、患者さんのためにもオンコパネルでいいので、最初からゲノム検査が安価に受けられるようにしてほしいと思う。

ガンセンターに来る前に標的治療や化学療法をうけていない人と既に受けていた人に分けると、受けていなかったグループだけゲノム解析の大きな効果が出たことを示している。
すなわち、ゲノム検査は最初の治療の際に行うべきである事が明確に示された。
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ゲノム情報なく治療圧力を加えると、ガン細胞が予期せぬ進化をし、効く薬も効かなくなる??