動脈硬化の治療は当時三共製薬の遠藤さんが開発した肝臓でのコレステロール合成に関わる酵素HMG-CoAを阻害するスタチンが現在も主流だ。私も服用しているが、コレステロールを下げると宣伝しているお茶などよりずっと安価に安全に使える。しかし、スタチンだけでは足りないと言うケースが存在することもわかっている。特に、動脈硬化が長く続いて血管内皮が痛んでいるケースでは、心臓発作のリスクを完全に抑えるための標的 LDL55-70mg/dl には到底スタチンだけでは到達できない(この 55mg/dl と言う目標は極めてリスクの高いグループについての目標で、一般的には糖尿病や高血圧を持つハイリスク群で 120mg/dl )。そのため、リポタンパク合成阻害剤、炎症阻害剤、HDL製剤、等々様々な標的に対する薬剤が開発されている。中でも、LDL受容体を分解するPSCK9を阻害する治療薬開発は各社競争で行っている。そして、治療のモダリティーは遺伝子治療から阻害薬まであらゆる可能性が追求されている。そこで、今日は最近目にとまった3編の、新しい動脈硬化治療についての論文を紹介する。
最初は Angiopoietin-like protein 3 (ANGPTL3) 遺伝子の発現を抑えるRNAi薬ゾダシランの小規模治験の結果で、4月7日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Zodasiran for cholesterol and triglyceride lowering in patients with hyperlipidemia: final report of phase 1 basket trial(コレステロールとトリグリセリドを低下させるゾダシランの高脂血症への効果:第一相バスケット治験のレポート)」だ。
ANGPTL3 はリパーゼの一部を阻害し血中脂肪の分解を抑制しており、細胞外に分泌されることから抗体薬エビナクマブが認可され、家族性の高コレステロール血症で使われている。ただ、一ヶ月に140万円かかるということと、より広い適用を目指して他のモダリティーの開発が進んでおり、例えば ANGPTL3 のペプチドを抗原としたワクチンの開発もその一つだ。
今日紹介するゾダシランはRNA干渉を使って ANGPTL3 の合成を阻害する治療薬で、皮下に自分で注射できるように設計されている。この研究では、ハイリスクでスタチンでは 70mg/dl 以下に制御できない高コレステロール血症、家族性だが片方の遺伝子のみ異常、そしてトリグリセリド 300mg/dl の患者さんに様々な容量のゾダシラン開始時及び4週目に1回注射し、その後16週まで様々な指標を調べている。
様々なデータが示されているが、全てのグループで16週まで ANGPTL3 の分泌をほぼ8割抑え続けることに成功し、その結果トリグリセリド、LDLを目標値まで下げるのに成功している。そして、副作用はほとんど現れない。以上の結果から、長期効果から考えて、さらに多くの患者さんに適用を拡大できるより安価な治療薬として開発が続けられると思う。
一方、ほとんどのモダリティーの治療薬が出そろっているのが PCSK9阻害剤で、モノクローナル抗体エボロクマブはスタチンで目標が達成できない患者さんの特効薬として利用されており、2週間に一回自分で投与でき、抗体薬にもかかわらず薬価は22,948円に抑えられている。
2番目のハーバード大学からの論文は治療として定着したエボロクマブの長期経過を調べた研究で、3月28日 JAMA にオンライン掲載された。タイトルは「Evolocumab to Reduce First Major Cardiovascular Events in Patients Without Known Significant Atherosclerosis and With Diabetes Results From the VESALIUS-CV Trial(エボロクマブは高度の動脈硬化のない糖尿病患者さんの重大な心臓イベントを防ぐ)だ。
対象は12257人の10年以上インシュリンを使っている患者さんで、これまで心臓発作などの既往がないグループで、スタチンを使ってもLDLが 90mg/dl を超えているグループだ。これまでの研究でエボロクマブはLDLは目標値に抑えることはわかっているが、長期に観察したときに、心筋梗塞など大きな心臓イベントの発生や、死亡率を抑えるかを調べるのがこの研究の目的になる。
最終的には1800人程度の患者さんの経過が調べられ、5年目で心臓死、心筋梗塞、脳卒中を合わせた3-P-MACEでみてオッズ比で0.69に抑えることができている。原因を問わない死亡率でもオッズ比を0.76まで下げられることから、まだ心臓発作などのイベント経験のない、しかし糖尿病の患者さんにはエボロクマブを使用した方がいいという結論になる。安いとは言え、一生使うことになるので、難しいところだろう。
さらに価格が下がるのかはわからないが、経口投与可能な PCSK9阻害環状ペプチド・エンリシチドがメルクから開発されており、次に紹介するテキサス・サウスウェスタン大学からの論文は1年にわたってその効果と副作用を確かめた治験で、2月5日 The New England Journal of Medicine に掲載されている。タイトルは「A Placebo-Controlled Trial of the Oral PCSK9 Inhibitor Enlicitide(経口投与可能なPCSK9阻害剤エンリシチドの偽薬対照治験)」だ。
経口薬と行っても環状ペプチドになると、エボロクマブより安価になるかはわからないが、注射が必要ないのは患者さんにとっては楽だ。この研究では無作為に1940人のエンリシチド群、969人の偽薬群に分け、一日20mgを経口で服用させ、52週目にLDLを抑え続けられるか調べている。
結果は上々で、1年にわたりLDLを治療前の50%以下に維持することが出来るという結果だ。そして、特に問題になるような副作用はなく、おそらくエボロクマブと同じ効果が期待できるという結論になる。
以上、新しい動脈硬化治療薬の開発は今後も続くと期待でき、価格競争のおかげで比較的安価に利用できるようになるのではと期待する。

経口投与可能なPCSK9阻害環状ペプチド・エンリシチド
注射が必要ないのは患者さんにとっては楽
結果は上々で、1年にわたりLDLを治療前の50%以下に維持することが出来る
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こんな領域にも、経口環状ペプチド薬が進出しているとは!
経口ペプチド薬には大きな可能性を感じます。