今の子供たちはもはや知らないと思うが、我々の子供時代のヒーローの一人はアフリカのターザンで、いつもチンパンジーのチータと協力しながら難局を乗り越えるのが映画で描かれた。そのためか、チンパンジーは元々愛らしい動物というイメージが染みついてしまっている。これを打ち破ったのが昨年亡くなった京都賞受賞者ジェーン・グドールで、チンパンジーの異なるグループ間では、互いに殺し合う抗争が見られるという報告だ。実際、ウガンダにチンパンジーやマウンテン・ゴリラを見に行ったとき、ゴリラは安全だがチンパンジーは極めて危険な動物なので注意するよう教えられた(図はキバレで撮影したグルーミングするチンパンジー)。

今日紹介するテキサス大学オースチン校からの論文はまさに私がチンパンジーを見に行ったウガンダ キバレの1グループを25年以上にわたって追跡し、一つの群れが殺し合う2つの群れへと変化する様を観察した研究で、4月9日Scienceに掲載された。タイトルは「Lethal conflict after group fission in wild chimpanzees(野生チンパンジーに見られたグループが分裂した後の殺し合い)」だ。
チンパンジーの群れでは、メスは群れを去って他の群れに合流するが、オスは同じ群れで暮らす。事実他の群れと出会うとグドールさんが観察したように殺し合いになる。従って、群れは100年以上にわたり安定に維持されていくと考えられてきた。また、群れの中での殺し合いはないことから、チンパンジーは明確に群れと、それ以外のメンバーを区別することがわかる。
群れの観察を続ける中で、群れの中に2つのサブグループが出来、個体同士の関係がサブグループで強くなっていくのが観察され、またテリトリーも西側と中心に分かれていった。特に、2014年に分離が急に強まった。それでも、2017年までは2つのグループは出会うと一つのグループメンバーとして振る舞い、グルーミングだけでなく、メスをシェアすることもあった。
ところが2017年以降は完全に別のテリトリーで暮らす2つの群れに分かれ、グループ間の交流は全く見られなくなった。それどころか、それぞれのグループは自分の縄張りを主張し、縄張りをパトロールする中で、ついに殺し合いに至る抗争が普通になって現在まで続いているという結果だ。
おもしろいのは抗争を仕掛けるのはいつも小さい方のグループで、殺される被害は大きなグループだけで出ている。一見不思議だが、大きなグループはバラバラになっていることが多いことから、このような結果になっているのかもしれない。
結果は以上で、チンパンジーでも群れが分離し、敵対してしまうことがわかった。別れる原因としては、群れ自体の大きさが200頭を超したことが原因だが、もう一つグループを超えた個人同士のネットワークが3-4年前から希薄になっていたことが上げられる。そして別れてしまうと、かって一緒に暮らしグルーミングまで行っていた仲間でも殺されることが明らかになった。
この結果から、個人同士のネットワークを常に維持することが平和への道であるとこのグループは結論しているが、団結ではなく分裂を促進するトランプのアメリカに住む研究者の気持ちはよくわかる。私たち日本も同じだが、この論文を読んで私自身は暴力団の抗争を思い出していた。一つの組が大きくなった結果分裂が起こり、他の組とよりさらに熾烈な抗争が起こる。こんな人間の特質も、進化の早くから存在するようだ。
キバレのチンパンジーを大体1時間近く観察する機会があったが、それを25年以上にわたって続けるサル学の研究者はすごい。

別れてしまうと、かって一緒に暮らしグルーミングまで行っていた仲間でも殺されることが明らかに!
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人間の特質も、進化の早くから存在する.
レビストロールの構造主義。
血が騒ぐのです。