渡り鳥が視覚だけでなく、分子内での電子移動を感知することで、地磁気を信号に変えることができる磁気コンパスを持っていることについてはこのブログで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/16040)。他にも、TRPV4チャンネルに鉄結合フェリチンを連結することで磁気をトルクに変え、磁気によりカルシウムチャンネルを活性化させ神経興奮を誘導する方法も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/4961)。ただ、これらは極めて特殊なシステムで、生理学的に磁場を感じる、いわば第六感が存在するとは考えたことはなかった。
今日紹介する韓国・東国大学からの論文は、普通のマウスの遺伝子発現を周期的な磁場を照射することで誘導出来ること、そのメカニズム、そしてそれを用いて磁場照射で遺伝子発現を誘導出来ることを示した驚くべき研究で、4月14日 Cell にオンライン掲載された)。タイトルは「Electromagnetic field-inducible in vivo gene switch for remote spatiotemporal control of gene expression(場所と時間特異的に遺伝子発現を誘導出来る電磁場によって誘導可能な遺伝子スイッチ)」だ。
何故実験室のマウスに、周期的な電磁場を投射するだけで発現が誘導出来る遺伝子があると考えたのか、それについては何の説明もないが、こう考えて磁場で誘導出来る遺伝子を探索したことがこの研究のハイライトになる。
おそらく神経系でこのような遺伝子が見つかる確率が高いと考え、脳に様々な強度と周期の磁場を照射、発現してくる遺伝子を single cell RNA sequencing で探索している。組織レベルの探索では陽性細胞が少ないと発見できないので、single cell で見たところが重要だ。その結果、少しは発現が変化した遺伝子がなんと15種類も見つかったが、ほとんどは差が大きくないので、4倍近く発現が上昇したLgr4遺伝子に絞って、この遺伝子調節領域を調べている。最終的に上流450塩基がほとんどの細胞で磁場照射に反応することが明らかになった。また、照射は2mT/60Hzが最も強い遺伝子発現を誘導出来るので、以後はこの上流を用いている。
この上流に蛍光遺伝子GFPを結合させてマウスに導入すると、3日照射でほぼ全身の細胞で傾向が見られる。そして、大体1週間で発現は消失する。即ち、磁場自体はあらゆる細胞が感じることができ、Lgr4遺伝子の上流を活性化することが出来ることになる。
何故このような第六感とも言えるセンサーを体中の細胞が有しているのか、線維芽細胞とCREISPRを用いて発現に必要な遺伝子を探索すると、チトクロームb5b (Cyb5b) が特定された。ここまで来ると納得できる。と言うのも、Cyb5bは膜結合型ヘムタンパクで、Cyb5b還元酵素から電子を受け取り他の分子に渡す働きがある。即ち、鉄を介して磁場と相互作用し、電子を受け渡すことでカルシウムチャンネルを活性化できる。この研究ではCacna1fカルシウムチャンネルに電子を渡すことでカルシウム流入を誘導し、Sp7転写因子を活性化して、Lgr4上流遺伝子を活性化することを示している。Cacna1fは網膜双極細胞での発現が高いことが知られているが、他の細胞でも発現しているか、あるいは同じようなカルシウムチャンネルを用いているのかもしれない。結果、2mT/60Hzを3日間照射すると3−4日間強い遺伝子発現を誘導出来る。
そこでこの系を利用して、なんと山中4因子のうちの Oct4、Sox2、Klf4 を全身で発現させ、電磁波照射を続けると、マウスは1週間で死んでしまう。組織学的に調べているわけではないが、細胞のエピジェネティックな恒常性が壊れれば死ぬのは当たり前だ。
ただ話はこれで終わらず、おそらく山中さんも予想できない方向まで進む。3日照射で3−4日の発現が誘導されるので、1週間に3日だけ照射を続けると、今度は身体に異常は見られない。特にこの条件ではNanogの発現がないので、染色体が揺らいだといった感じになる。そして、遺伝的早老マウスに電磁波照射で間欠的に山中3因子を発現させると、驚くことに寿命が延び、組織的な老化症状を抑えることができる。更には、皮膚損傷でも間欠的刺激により修復を早めることができる。
後は、脳でAβやセロトニン合成経路を場所特異的に誘導する実験を行っており、遺伝子発現システムとしての能力の高さを強調しているが割愛する。
ともかく、チトクロームb が存在すればほとんどの細胞が磁場を感知できること、それをシグナルに変えて遺伝子発現を誘導出来ることが素晴らしい。これだけでなく、iPS20周年にふさわしく、山中3因子の全く予想外の機能も明らかにした。おそらく3因子全てが必要とは思わないが、是非調べてほしいし、例えばパイオニア因子のKLF4だけでも同じようなことが起こったりすると、新しい老化のエピジェネティックス研究が進む気がする。大変おもしろい論文だと思う。

1.チトクロームbが存在すればほとんどの細胞が磁場を感知できる2.それをシグナルに変えて遺伝子発現を誘導出来る
3.iPS20周年にふさわしく、山中3因子の全く予想外の機能も明らかに.
imp.
磁場と老化の関係!
ピップエレキバンにも意外な作用が、、
Oncogeneが発現していると、完全なりプログラムは起こりにくいという昔の仕事はあります。ただ、揺らすだけの場合は全くわかりません。
同じシステムでがん細胞株に実験するとどうなる事が予想されるのでしょうか?